epilogue

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『あのなあ、浬。物事には順序ってものが……確かに婚約者同士ならおかしくはないが早すぎる。 結婚すれば一緒に暮らせるだろ。それまで待てんのか』 『待てないから言っている』 『開き直るなっ。少しは体面を重視しろ』 暗に、“結納も挙式の時期も未定なのに同居など言語道断。ならわしやしきたりを重んじる清宮家のルールに(のっと)るべきだ”と言っているのだが、息子は歯牙にもかけずどこ吹く風と聞き流している。 その様子に眉を吊り上げる清宮当主の眼光が余計に鋭くなるため、いい歳した父子が繰り広げる埒のあかないやりとりに苦笑する舞子が仲裁に入った。 『いいじゃない。もういい大人なんだし、浬の好きにさせてあげたら』 『だが式も挙げてないのに花嫁をかっさらうなど聞いたことがないぞ』 『それはあなたの主観でしょ。 浬の主張って世間一般では別段おかしい話ではないようだし。まかり通ってることよ』 『いやだが……』 『体面を気にするなら、けじめとして先に入籍すればいいんじゃないかしら。だいたい浬が一度言い出したら聞かないのは分かり切ったことでしょう。 ていうかそういうところあなたにそっくり』 ばっさり斬られ、清宮当主はうっ、と口ごもる。 妻には歯が立たないのか、ハァ、とやるせないため息を零した。眉間に刻まされた皺の深さが、夫君の苦悩を物語っている。 『……君は昔から浬に甘いんだから……』 『あのときは私に発言権など一切ありませんでしたからね。今回は遠慮なく口を挟ませていただきます』 フフ、と妖しく目を光らせて艶やかな笑みを含ませる妻に、清宮当主もさすがに観念したようだった。 その後の進行は滞りなく進み、結婚の挨拶はお開きとなった。 玄関で靴に履き替えているとき、彼へ仕事の電話が入った。 急用なのか画面を一瞥した彼は申し訳なさそうに小さく手を挙げて、一旦外へ退出する。 するとまるで美月が一人になるタイミングを見計っていたように、背後から声をかけられた。 『――美月さん』
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