epilogue

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美月の表情が自然とほころぶ。彼女が本来持つ心からの笑顔を見て、彼の父親は満足したように眦をかすかに緩めた。 『君を受け入れる準備は着々と進めている。だから安心してくれ、と言いたいところだが、親族にはいろんな考え方をした連中がいる。 個人の価値観も感性も、思考も十人十色、千差万別、多種多様で違っているからね。 いっときは好奇の目に晒されるかもしれん。中には君に対して強い警戒心を抱く者もいれば、嘲笑う者もいるかもしれない。 だが君は何も卑下することはない。堂々としていればいい』 『はい……』 きっとこの先、理不尽なことや折り合いがつかないことなど山ほどある。 彼と一緒になることによって、そのコネクションを目当てに近づいてくる者だっているかもしれない。 育ちの違いを目の当たりにして、窮屈な思いをすることも。 本来なら悩まなくてもいいことが浮き彫りになることだってたくさんあるだろう。 一般家庭で育った自分が彼の世界へ飛び込むことは、そう甘いものではない。 だからこそもっと教えを請いたいと思った。 一歩下がって後ろについていくのではなく、彼の隣を堂々と歩ける人になりたいと。 その決意を表明したくて口を開きかけたそのとき、横から舞子が割り込んできた。 瞳を輝かせながらガシッと両手を包み込むように握ってくる。 『美月さん。今日はわざわざ来てくれてありがとう。でもまだ話し足りないから、今度一緒にお食事でもどう?』 『あ、はい。ぜひ……』 その勢いに気圧され、彼女に倣ってスマホを取り出すと連絡先を交換する。 するとほどなくして電話を済ませた彼が慌てた様子ですっとんできた。 『美月っ、大丈夫か!?』 ズイッと顔を近づけられ、美月は驚いて目を瞬かせる。 『え、なにが……?』 『さっきまで親父と話してただろ!? なんか言われたんじゃないのか!?』 どうやら意地悪なことを言われたと思ったらしい。 なんにも知らない彼がおかしくて、美月は堪えきれずに小さく噴き出した。 目を丸くして首を傾げる彼が、頭の中に大きな疑問符を浮かべている。 怪訝そうにこちらを見つめてくる婚約者の端正な顔を眺めながら、しばらくクスクスと笑っていた。
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