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「…最近、盗賊が”王都宝物庫”を荒らしたって噂話を聞いたんだけど。
…王都騎士団が地方に来てるってなると、その話は本当なのかもしれないね。」
俺の握る手を優しく握り返しながら、リオンさんは神妙な面持ちでそう呟く。
「えぇっ!?そんなの全然知らなかった!」
イアンは驚いた様子で、それにリオンさんは苦笑して「奥様方の噂話は侮れないよね。」と返した。
そうか、奥様方の間でそう言う噂話が流れてたら、皆さん出歩かないのも納得だ。だって…盗賊って怖いよね。
「まぁ、王都側からの通達はないし、確定じゃないから、別の理由があるのかもしれないけどね?
けど…今日はもうお店閉めようか。
イアン、手伝いに来てくれてたのにごめんね。
俺がシアラ婆さん家まで送るよ。」
「えっ、でもパンが…!!」
俺は、リオンさんの言葉に思わずそう言って、戸棚のパンを見る。
今まで殆どの日で売り切れだったのに。今日はまだパンが並んでいる。
イアンも同じような気持ちらしく、縋るような目でリオンさんを見ていた。
「うーん、…日持ちするパンはこれからこっそりご近所さんに配ろうか。イアンも沢山持って帰ってくれると嬉しいな。あと…今日の晩ご飯はお惣菜パン祭りになっちゃうかな。
…そんな顔しないで。豪雨だった日も一度これぐらい売れ残ったことはあったし大丈夫。…仕方ないよ。」
そう言いながら、俺とイアン両方の頭を片手ずつ優しい手つきで撫でられてしまえば、もう何も言えない。
こうして俺たちは渋々、パン屋を閉めることになった。
「ねぇ、俺もイアンを送るの、ついて行ってもいい?」
閉店作業を三人で終わせて、帰る準備をする2人に、そう聞いてみる。
「なんで……って、もしかして。俺が帰り道ひとりになるの、心配してくれてるの?」
キョトンとした後、思いついたようにそう尋ねるリオンさんに、俺はうん。と大きく頷いた。
…そう、イアンを送り届けた後、リオンさんは一人で帰ってこなくちゃならない。
強いリオンさんだから大丈夫だとは思うけれど…。それでも、心配なんだ。
「そっか、ありがとう。…家で一人でいるのも心配がないわけじゃないし…。いいよ、一緒に行こっか。」
リオンさんは少し考えてから、そう言ってくれた。
ほっと安心して、ありがとう。と返す。
家を出ると、やっぱりいつもより格段に人通り少ない。
三人で不安をかき消す様に明るく話しながら歩いあ。
心の中で盗賊の噂が杞憂でありますように、と願いながら。
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