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混沌の世の中を生き抜く術を与えられたことを感謝すべきだろう。力が力を制し弱者を強者が喰らうのが当然の倫理と化している。人の本性がまかり通る時代には、その時代にふさわしい善悪が蔓延し、人は己の欲望を露わにする事でしか生きられないのだと思い込むことで欺瞞のループに陥る。
では、人ならざる姿を与えられた者は。
人なのか獣なのか。
異形者と呼ばれる人間の体に獣の肢体を持つ者たち。
彼らの出現が世界大戦を混乱に陥れ、そして自然収束にと繋がったのは誰もが予想しなかった結果だ。
……こんな体を持って生れたことが、幸いするなんて思ってもみなかった。
広い場所で対峙するのは、大型の人狼相手には不利だ。ジェフリは暗闇の中で鈍い光を放っている古い時計塔を目指して走った。少しでも生きる可能性があるのなら走るのをやめるわけにはいかない。この命をつなぐ意味を知るまでは……生きる。そう決めたのだから。
ずしん、ずしんと重い足音を響かせていた人狼が背をしならせ、ぐっと四肢に力を入れた。ばっと跳躍しジェフリの行く手を遮ろうとする。ぎりぎりで回避したが臭い息が鼻腔を刺激する。この人狼は腹を空かせている。そして人を喰らう生き物は、その罪深さゆえにか体中から腐敗臭を漂わせる。
誰が変貌しているのか知らないが。
かなり、体に馴染んでいるらしい。
無駄のない動き。ためらいのない攻撃。
ジェフリはもう一度、鋭い爪が生えてきた手を握りしめ、背後の古い時計塔に向かって走った。
女王アルテミアが統治する太陽神ラームを頂点としたダステレミア王国。
大陸の東端に位置し農業と酪農、時計のような精密機器が主産業。
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