ほどよい温度

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窓際に取り付けた風鈴は完全に任務を放棄し、だらしなくぶら下がっている。網戸を通じて入ってくるのは涼やかな風ではなく蝉の合唱。 真夏の午後二時。只今の気温35度。 シェアハウスの共用部。付けっ放しのテレビから、ワイドショーのコメンテーターが喋る声が聞こえる。部屋にいるのは僕ともう一人。誰もテレビを見ていない。 先ほどから僕は彼女の視界に入っては消え、入っては消えを繰り返している。ソファに座り静かに雑誌をめくる彼女も、いい加減イライラしてきたらしい。非難の混じった声で問われた。 「孝太郎、さっきからお主は何をしている?」 床の上をゴロゴロと転がっていた僕はピタリと動きを止めた。 「なんかもう、この部屋暑すぎてさあ。フローリングってちょっとひんやりしてるでしょ。」 だらしなく寝そべったまま答えた。
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