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恋の流浪人
指紋の後が足跡のように浮かび上がっている黒のワイヤレスイヤホンのケース。
触れば手に鉄の臭いがこびりつくほど錆びれ果てた家の鍵。
何度も落としたであろうひびの入ったケータイ。
しわくちゃな白タンクトップに、土だらけの白スニーカー。
年季が入りすぎて灰色のように見える黒のアロハシャツ。
そして、シミだらけの茶色の海パン。
世間では夏休みだと言うのに、あまりにも人気のない公園のベンチにだらしなく腰をかけた男が一人。
名は、「小木巧(おぎたくみ)」。
天然パーマのクルクルした前髪からは水滴が一粒、二粒と滴り落ちている。
「暑い。」
そう、これがこの物語の主人公である俺だ。
昨日からニートになった挙げ句、虚しくも今日で24歳の誕生日を迎えてしまった、俺である。
さて、どこから話そうか。
厄年真っ盛りのこの俺にこれ以上の不幸はないとは思うのだが、1から順を立てて話そうじゃないか。
まず、俺は恋をした。
相手は10万人を越えるチャンネル登録者を持つ人気女性YouTuber。
出会いは同級生の結婚式だったんだ。
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