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「お兄様のお薬を?思い違いじゃないですか?」
言っても手にしていた本が悪かった。
睡眠障害の専門書——。
「責めてるんじゃない」
薫は僕の隣へ来て本を手に取ると、ステンドグラスの窓から差す日に眩しそうに目を細める。
「いいのさ、安定剤も眠剤も腐るほどあるから。でもな——」
どうやら怒ってはいないみたいだ。
鳶色の瞳と揃いの長い睫毛を伏せると薫は本の表紙に視線を落とし言った。
「おまえに何かあるとまたトラブルになるのは目に見えてるだろ」
「何かあるって?何もないですよ。少し寝つきが悪いだけ――」
セーラーシャツのリボンを弄ぶ指を不意に薫は掴んだ。
「何?」
思わず僕が欲しいのかと口から出かかった言葉を飲みこむ。
薫は僕の指先をじっと見つめほんの少し力を込めて握った。
「痛いだろ?」
「どうして……」
言われてようやく気づいた。
指先に皮が擦れたような小さな傷がいくつもある。
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