拓真

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拓真

「ああ、お前も小林なんだ」  と、最初に言われたのだ。  小林拓真はぼんやりとそれを聞き、3秒後、思わず「は?」と間抜けな声が出た。 「下の名前は? 拓真? じゃあ、まんま”たくま”でいいよな」  うんうんと頷いて、彼は勝手に納得したようだった。初対面にもかかわらず自分のペースで話を進めるが、おおらかで真っすぐで、それを不快に感じさせない少年だった。 (…も、ってなんだ?)  と思ったが、不都合もないので曖昧に首肯した。高校入学直後、たまたま隣の席になったクラスメイトはその後、学校で一番の有名人になったが、当時は「え、サッカー部?」「そうそう、お前は? 野球部?」などという、ごく平凡なやり取りが続いた。柔和な丸顔で明朗快活な少年とは、サッカー部のメンバ以外では一番といっていいほど仲良くなる。  そして、それが拓真と柳澤圭一郎との初めての会話だった。  この年、桜の開花は早かった。  入学式を迎えた頃にはすっかり葉桜となっていて、拓真が何気なく見遣った窓の向こう、正門前の桜並木は薄紅色と黄緑色の斑模様で。  春、だった。
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