親子

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 突然の出来事に、先程までの親子の会話がぷつりと途切れた。何が起こったのかまだ理解しきれていない息子と、大方察しがついたらしい母親。しかし両者共に、普段の生活では絶対に見せないであろう表情をしていた。  あちらこちらに動く視線は、一律して俺の方を向かない。余程恐怖に感情を支配されているのか、はたまた単に滑稽な俺の姿がおかしいだけなのか。  ともかく、彼らの気をそらすことはできた。後はFのとどめを待つだけだ。  しかし、 「ヨウタ、逃げなさい!」  ここであろうことか、女が自分の息子に逃げるようにと指示を出した。その言葉の意味を理解するや否や、ヨウタなる少年が俺に背中を向けて走り出す。本当に逃げる気なのか、自分の母親を置いて。  当然このままではFの計画が破綻してしまう。すかさず俺は、壁の如く立ち塞がる女を押しのけ、ヨウタの首根っこを掴んだ。その拍子に少しばかり、ナイフの刃先が彼の右腕に当たってしまった。多少血が出ているものの、このままFに殺されるのであれば大した問題でもないだろう。 「う、うう……痛いよぉ」 「テ、テメェ、今度動いたら殺すぞ!」  さぁもう十分に気は引いた。後はFが彼らにとどめを刺すだけだ。先程のタイミングと言い、どうも彼は時間にルーズらしい。  しかし次の瞬間、なぜか俺の後頭部に強い衝撃が走った。それはあたかも、鈍器のようなもので殴られたかのような痛みだった。  バタッーー。急に体が動かなくなり、俺はその場に倒れた。どうやら今の衝撃で、脳か何かがダメージを受けたようだ。倒れた後も俺の体は、全く言うことを聞かなかった。  一体、何が起こったのだ。そして俺の固定された視界に映ったものは、あろうことかFが履いていたズボンの裾と茶色の皮靴。さらにはそれに向かい合った、親子の足であった。 「ヨウタくん、今のうちに早く! ヒナさんもこっちです!」 「フルタくん!? どうしてここに」 「それよりも早く、この暴漢が倒れている内に!」 「え、ええ、ヨウタ、急いで!」 「うん!」  そうか、そう言うことだったのか……。消えゆく意識の中で俺は悟る。Fには初めから、彼らに恨みなどなかったのだ。俺は単に、Fが親子に近づくための口実として利用されただけだったのだ。  しかしそれなら、なぜFは彼らの元を離れてしまったのか。ふと俺の頭の中に、Fがこの親子について話していたことが過ぎる。 「一ヶ月程前に、彼女の夫は轢き逃げに遭い死亡しました。その犯人はまだ見つかっていないそうです」  もしかしてこの女の夫を、この子供の父親を轢き殺したのってまさか……。声も出せないような激痛が増す中、とうとう俺の意識は途切れた。
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