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手についた頬の感触はひんやりとしていて、熱を持たないそれは、もうこの世のものではないのだ、ということをはっきりと主張しているようだった。 デコピンの要領で頬を叩くと、ぺちっという鈍い音がする。手のひらで頬を叩く。 全てを吸収するかのように、鈍い音だけがこの広い部屋に響いては消える。 「起きてよ。なあ、起きろって」 二度、三度、今度は強く叩く。柔らかくて硬い相反したその感触が不気味だ。 「もう……どうしたらいいんだよ……」 何度話し掛けても、何度叩いても、棺の中の表情は、いつまでも変わらなかった。
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