第二話 薔薇の中の小さな子

3/4
51人が本棚に入れています
本棚に追加
/208ページ
…バラの…香? シュンシュンと音を立てる機械の音? 「へ、へーっくしゅん!さむ!」 くしゃみと鼻水、寒くて体を抱いた。 ここはどこだ? 紙を出して来たのはさっきのガキ。 受け取って鼻をかんだ。  目の前には、固まったままの男、侍従長だっけ? 「あーあ、閉じちゃった、寝ちゃったのかな」 バラがつぼみになってしまった。俺は棚を開け、爺ちゃんのコートを出した。薄着の彼、まったく。 「ぼろいけどきなよ、洗濯はしてある、風邪ひく」 男は手を伸ばした。  ドアを開けると、パチパチと暖炉の火が消えそうで、慌てて木をくべた。 さっきのは夢?夢じゃ片付けられないよな、だって、この人がいるんだもの。 お湯が残っている、お茶を入れた。 「はい、毒は入ってないよ、僕はポデット、ポトって呼ばれてる、貴方は?」 「私はクラウド」 大きな屋敷の侍従長じゃ、今頃お屋敷は大変だね。 そうですね、カップを両手でつかんで温まっている、暖炉の火も強くなってきた。 ここは何処ですか?と聞かれた。 ここはハウシュ国の北のはずれ、フラッバーという町だといった。 「ハウシュ・・・」 俺は部屋を片付けにさっきのじいちゃんの部屋に入った、寒いからドアをあけっぱなしにして。 「すごい匂いだな」 「そう?香水だもの、しょうが無いでしょ」 「その花弁はどうする?」 蒸して花の色が変わった物。 干して、お茶にする。 部屋の中を見てもいいかと聞いてきた。 「いいけど、あんまり触るなよ」 クラウドは本を見たり、香水の機械をみたりしている。 コトッとカップを置いた音がした、机の上の、銀のボロボロの本を手にした。 「それ、ほつれてるから」 彼は、その本に手をかざした。 「ひ、光った」 「そうですか、貴方が…」 本を開いた。 まだ手をかざしている。 パンと本を閉じると光が消えた。 「お姉さまはいずこへ?」 「いずこって、仕事だけど」 窓の外を見た、もう暗い、帰りはもう少しだな。 香水はできていた、作業は明日にしよう、大きな瓶に流し込んでコルクで蓋をした。 男はその本を貸してくれと言った。僕は暖炉のそばに行ってくれと言った、灯りが少ないから、その方がいいだろうというと、男はありがとうと言った。 「御礼いえるんじゃねえかよ」 俺は黙々と片づけを始めた。  しばらくして、姉ちゃんが帰って来た。 クラウドを紹介、姉のマーサを紹介した。 「失礼ですがお亡くなりになったおじい様のお名前を教えていただけますか?」 「ファン・フェンディ―だけど・・・」 うちはファン家これでわかっただろフン! 「あなた方はもう一つの名前をお持ちですね?」 ドキッとした、これは絶対言っちゃいけないと言われてた。 「…それは」 「フン、そんなの知るか!」 そうですかというクラウドは、俺のステッキをさわろうとした。 「触るな!」 すると、胸のポケットからきれいなハンカチを出した、それでステッキを大事に両手で持ち上げた。頭についている、大きな透明な宝石の中に咲いているバラを彼は目を細めてみた。 そして、俺の前に片膝を付き、こういったんだ。 「わが主、帰還の時がまいりました、屋敷へ戻り、国をお救い下さい」 「国を救う?」 「はい、おじい様はこうは言っておられませんでしたか?」  その国が、王を求めてきた時・・・  俺は頷いた。 彼は頭の上にステッキをかざしたんだ、俺はそれを取った。 すると彼は俺に本をよこすとてきぱきと動き始めた。 姉にコートを着せ、バラのカップを渡した。火を消し外へ出し、カギをかけろといった。 「また帰って来れるよね」 はい、すぐにでもと彼は笑った。彫りの深いごつい顔は笑っていてもなんか。なんかこえーよ。 そして、俺がいつもぶら下がってる木の下へ。 「楡の木…珍しい、バラも、手入れが・・・こんなにも、さすがでいらっしゃる」 なにがだろう? 彼は、爺ちゃんのコートの中から瓶を出した。 「それ、俺の香水」 「主(あるじ)が作られた物です、拝借いたします」 それを木の下に撒いた。 「ではお願いします」 お、お願い? 「どうぞ」と手を差し出した。 「どうぞって」 「お屋敷までお願いします」 「僕が?」 「あなた様以外どなたがいらっしゃるのですか?」 え、え、俺がするの? 「落ち着いて!」 姉ちゃんが言うも、もうどうにでもなれ! ステッキで円を描き、ローズ屋敷、ローズ屋敷。 お願い連れて行って! くるくると大きな円を描き 「ローズ屋敷へ!」 ドン! と両手でステッキを突いた。 風が足元から巻き上がった。 「姉さんつかまって!」 二人が俺の腕につかまった。
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!