第一話 楡(にれ)の木屋敷の腰曲がりのポト

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 あり得るはずないよなー、はーア。そう思いながらくるくる・・・?  えっ?何これ?  床が光り始めた、足元が、まるで金のじゅうたんのように光り始め、僕は椅子の上に登った。 「う、うわーーー!!!」 「ポト、ご飯?何?」 「姉ちゃん、わかんない、床が、床が光ってる!」  姉ちゃんはドアのところから動けないでいた。俺は、何気なく、こんなことをしたと話した。 「もしかして、おじいちゃんの話は本当だったのかしら?」 「わかんない、何、これ?」 そのうち、その光は小さくなっていった。 「・・・なんだろう?」 「・・・卵?」  その光が銀の本の上に集まると、目の前に丸い球が現れた。 うずらの卵ぐらいの大きさ、色は… 「うずらの卵みたい」 「真っ白?でも、銀色に見えない?なんか透き通って見えるわね」 触るのが怖くて、ステッキで突っついた。 転がった。 「触ってみる?」 「なんか怖いわ」 俺は手を伸ばして、それを握った。 「あったかい、姉ちゃん、あったかいよ」  姉ちゃんもおっかなびっくり手を伸ばしてそれを触った。 「本当だ、あったかい、生きてる、どうしよう、あっためなきゃ、毛布」 「そんな大きなものいらないよ、マフラーでいいや」 「でも鶏なら、体で温めれば孵るって聞いたわ」 「わかった、今寒いからちょうどいいや、姉ちゃんいらなくなったタイツくれ」 それの中に卵を入れ、落ちないように、端を結んで、首にかけ、シャツの中に入れた、あったかかった。 「それならおとさないわね、ご飯にしましょ、驚いたから、お腹がすいたわ」 「俺も。ははは。」 それからしばらく、俺はその卵をあっためていたんだ。  一週間後。 「姉ちゃん、エッグ、大きくなってきた、タイツじゃもう無理だ」 鶏の卵の倍になった。パンパンになったタイツじゃ窮屈そうだ。 「そうね、こんなに大きくなるなんて、でもあっためてあげましょ、こんなに大きいと、ハクチョウでも生まれるかしら?」 なんてことを姉ちゃんは言っているけど、卵が大きくなるなんて聞いたことがない。  街はそろそろ年末の支度、あちこちの店には、飾りがいっぱい飾られている。子供たちはそれを眺めるだけだ。 昔、爺ちゃんに手を引かれ、それを見ていたことがある。爺ちゃんの生まれた国や、この国でも昔、冬祭りというお祭りがあったそうだ、それを思い出すと言っていた。お祭りはいつの間にか忘れ去られてしまうかもしれないなと爺ちゃんが寂しそうに言っていたのを思い出した。爺ちゃんが生まれた国のお祭りは一月の一番昼間の時間が短い日に行われるものだって聞いていた。爺ちゃんはそのお祭りは不思議できれいな物だという、ただそれを見ることのできるのは、妖精たちの祝福を受けた者達だけだと聞いた。  本の中のお話で、本当なのか僕たちは知らない、でも、爺ちゃんぐらい年の行った人たちは、確かに昔、冬祭りがあったと言っていた、その名残は、今もある。 そう、薪を組んで燃やすんだ街の広場で。昔は、あちこちで火を燃やし、朝まで明るくすることで、春が早く来て、豊作を願うんだって言っていたけど、いつの間にか、子供ばかりになった町は、危ないからってやらなくなっちゃったんだそうだ。  この町には、何で大人が少ないのだろう?  姉さんは、あと三年で私も死ぬかもしれないと言っている。 何でだろう? わからないけど、二十歳くらいになると死んじゃうそうだ。それをこう言う人もいる“大人になれない病”病気なの? そうみたいという姉。 でも子供が多いのはどうして? よそから来る、どこからともなく集まってくる、そして死なない子供をつくっているのかもねと言う?どういう事?と聞くと、まだ子供だから教えないという。 フン、どうせまだ子供だもんと口をとがらせた。 でも今のこっている年寄りや大人たちはどうして残っているの? 考えたこともないという姉は、食事にしようと、スープとパンを用意したんだ。 「生きてることに感謝して、いただきます」 「いただきます」  黒い硬いパンと裏庭で作った野菜と、買ってきた豆、それを少しのお肉で取ったスープで煮る。お肉も高いし、俺がこんな体だから、魚を釣りに行くのも大変で、姉ちゃんには悪い事ばっかり、ごめんね。 そんなことないよ、二人でいれば楽しいものと姉ちゃんは言ってくれた。 でもな・・・  テーブルの上には、キラキラ光る卵が俺たちを見ている。
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