第四章 花見

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あどけなさを残していた風貌は跡形もなかった。 血の涙を流しながら彼女は目玉のない顔で優介の顔をのぞき込む。 ついさっきまでと明らかに様子も、まとう雰囲気さえも違っている。 後退りしようとした優介はしかし体が動かないことに気がついた。 (金縛りっ!?っこんなときに……!) 「………~っ」 声すら、出ない。 見れば、壊れたように何度もはねられ続けていた少女はその場所を越えている。 ずっと同じ場所で事故に遭っていたのに。 イダイ……シニタクナイ 初めてこの子が事故にあったシーンを見たときと同じように頭の中に直接響いてくるような声。 だが、その声は声というよりひび割れたノイズのようで聞いているだけで背筋が粟立った。 そして次の瞬間優介は凍りついた。 イッショニ……キテ……… 横断歩道のど真ん中で動けない優介の視界で歩行者用の信号が点滅し始める。 (まさか……っ) 道連れ。 不吉な言葉が頭をよぎった。 背中を冷たい汗が伝う。 道連れにされる。直感だったが、ほぼ間違いなかった。 優介が掴もうとしたときには触れることのできなかった少女の手。 指がバラバラの方向を向いて指先にあるはずの爪はなく真っ赤な肉が覗いている。 その手が優介の右腕を掴む。 「……っぁ」 恐ろしいほどに冷たかった。それにまるで皮が毛羽立っているかのようながさがさとした感触。 人間の手だとは思えない。 更に逃がさないと言わんばかりに痛いくらい力を込められる。 (車、が……!) クラクションの音が聞こえる。 唯一動く目で横を見れば徐々に近づいてくる自動車。 「~~っっ」 なんとか体を動かそうと試みるが、自分の体とは思えないほど体が言うことを聞かない。
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