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「えっ、なんでっ?」
もう一度アタックする。しかしサンマは再び跳ねて、二メートル先へ逃げた。焼けて白くなったサンマの目が「お前になんか捕まるか!」とでも言いたげに、おまきをじっと見つめている。
「うそーん……」
おかしい。
焼きサンマのくせにやたら活きが良い。
焼きサンマはつまり、サンマの焼死体のはずだ。死体は動かない。動く死体はゾンビだ。
「まさか、焼きサンマゾンビ……?」
かつてない方向に思考がリンクし、さすがのおまきも少したじろぐ。その矢先だった。
「アラヨー!」
「ソラヨー!」
機械のように抑揚のない、耳障りな高い声が聞こえたとたん、頭上から黒い何かが降ってくる。おまきは咄嗟に横へ転がった。
「ちょっと何よ危な、ひっ!」
抗議の声を無視して、黒いものが二度、三度と襲って来る。かわした刹那に見えたのは黒く大きな魚取アミだ。捕獲しようと振り回しているのは、例の全身タイツ達だった。
「出たわね銀色全身タイツ!」
「デタワヨー」
「デタワネー」
「合唱すんなキモっ!」
銀色全身タイツ二人組は無表情で、じっとおまきを見つめた。
「ワタシタチハグレーィ」
「いや知ってるから自己紹介いらないから」
「ワタシタチニツカマッテホシイノーカワイコチャン」
「えっ?」
カワイコチャン、と呼ばれて一瞬ニヤついたが、おまきはすぐにヒゲを立てて臨戦態勢を取った。
「あんた達、わかってんの? この行為は協定違反だ」
「ナンノオハナシー?」
「シラナイハナシー?」
グレーィは喋りながらゆっくり網を構え、おまきを囲い込むように近づいて来る。おまきはジリジリ追い詰められ、やがて資材を背にして逃げ場を失った。
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