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「その通りですね。盗られちゃいますよね……」
一度ならぬ二度も、私自身が身を以て証明したぐうの音も出ない正論だ。
「待った、待った!! なに泣いてんだよ!?」
私の事情なんか誰にも関係ない。人前で泣きたくなんかいない。ましてや大切な仕事先の相手だ。分かっているのに涙を止められなかった。最低だ。社会人失格だ。
「ごめんなさい。今日は帰ります。せっかくお時間いただいたのに申し訳ありません……」
これ以上醜態を晒せられないとカバンを掴んで立ち上がった。こっちに来て環境も変わって水島や雛の顔が過ぎることも少なくなっていたのに、心はまだまだ脆かった。ちょっとした攻撃でぼろっと崩れる、砂の城と変わらない。
足早に立ち去って店を出るが、追いかけて来た葛城に腕を掴まれた。
「待って!」
「離してください!」
とんでもない力で引いても振っても振りほどけそうにない。外で揉めているせいでいらぬ注目も浴びている。
「じゃあ逃げるな!」
「分かりました! 分かりましたから離してください!」
捕まった以上どうしようもないと、観念して前に進もうとしていた心を一旦落ち着かせた。ゆっくりと葛城の手が離れていく。
「申し訳ない! 言っていいことと悪いことがあるよな! ごめん!」
「!?」
葛城が勢いよく体を折り曲げた。土下座だ。今度は私が驚いてしまう。
「や、やめてください! 葛城さんがどうこうでなく、私自身の問題ですから……!」
「いや! おかしなこと言って泣かせてしまった俺が悪かったんだ! 申し訳ない! この通りだ!」
額を床にこすりつけている。普通、そこまでする?
どう考えても痛そうで、頭上からの制止をやめてしゃがみこんだ。
「本当に違いますから、どうか顔をあげてください!」
「だったら、帰らないでもう少し付き合ってくれ!」
「分かりましたから……!」
「本当ですか!?」
嬉しそうに顔を上げた葛城の額に血が滲んでいてぎょっとする。
「額! 血が!」
「えっ、マジ?」
「マジですよ! もう!」
絆創膏を取り出して貼ってあげた。
公衆の面前でいい大人が一体何をやってるのか……可笑しくて顔を見合わせて笑った。
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