Number 2

23/29
/411ページ
結局元のピザ屋に舞い戻った。会話はこの会の本流、開発の話に終始した。真っ向からやりあうとまた昨日のように頭痛が出るかもしれないので、基本、聞き役に徹していた。 葛城は清々しいくらいに開発バカだ。理論的に納得できないことは決して実行しない。昨日今日で面と向き合ってわだかまりは少し溶けたかもしれないが、まだまだ仕事上の対立は起こりうるだろうと覚悟する。 2時間ほどで店を出て歩き出す。風が強く、ジャケットを着ていても肌寒い夜だ。 「昨日の電話の相手は誰ですか?」 「えっ?」 いきなり訊かれてびっくりした。 「良い表情してたから。それこそ、今とはまったく違う」 仕事=戦闘モードの時とプライベートの顔が違うのは当たり前だ。でも広瀬と話している時の私はとりわけリラックスしている自覚がある。 「なんだかすごいムカついてしまった」 葛城が立ち止まる。むっとした顔を向けられるもすぐにふいっと逸らされた。再び歩き出したので足を進める。しばし場が静まった。また女がどうとかケンカを売られてるのかと条件反射的に構えたが、これは……。 「最近、自分がよく分からないんです。開発に集中したいのに頭の中がモヤモヤしてる」 彼が言葉にしない困惑の正体を、じわじわと肌が感じ取り始める。 「葛城さん……私」 「すみません、それ以上は言わんといてくれますか? 明日からまたよろしくお願いします」 出会って1ヶ月も経たない仕事上の間柄。初めは嫌われていたのに彼は私の何を見て変化したのだろう。泣いてしまったのが思わぬ方向に転じたのか……。 彼の心の中のすべては分からないが、濁してくれてよかった。本当にそうだったとしても、私は応えられない。誰かを好きになったり、付き合ったりしたいわけじゃない。 恋愛はこりごりだ。今は平穏に生きたかった。
/411ページ

最初のコメントを投稿しよう!