流星の記憶

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 まだ、桜の蕾も堅い時分だった。  思い立って、佐倉駿輔は高校入学前に練習用のロードを走ることにした。これから三年、日々走ることになる道だ。興味6割、惰性3割、警戒1割。走ることに飽いてはいないが、練習には程々に飽きていた。  だから、ファーストインプレッションに心は躍った。だいたい、校内は勿論、近隣にシュンスケより速いランナーが居ない現実がやっと変わる。  と、意気揚々と新しいコースを流したシュンスケだったが早速、収穫があった。彼の足をもってしても、どうしても追いつけない少年がいた。長身で痩せ型の、色黒の少年。さすがにスポーツエリートの集まるマンモス校、高校生は速えな、と思いながら彼に声を掛けたのだが。 「え、マジで? 一年?!」  関西弁の少年は、シュンスケと同じ新一年生だったのだ。同級生の後ろについて走るなど何年ぶりだろうか。思わずまじまじと眺めても、相手はなんだか長閑な顔で微笑んでいる。  その顔にも小林穂高という名前にも覚えはなかったけれど、逸材というのは居るところには居るんだなと、素直に感心したものだ。  まあいいか、とシュンスケはひとり頷く。  三年間で追いつけばいいし、チームメイトなら好都合だ、と思った。都大路や、いずれ箱根も出雲も伊勢も一緒に走るのだし、と。  なのに結局、彼と一緒に走る日は最後まで来なかった。
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