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儀式
ためらうことなく、男に裸を晒さなくてはいけない。
心を落ち着かせようと青年は息を吐く。ひと息吸うと、アスコットタイをほどいていく。
あつらえたばかりの黒のモーニングは、まだ躯に馴染まない。生地が固くて、ジャケットを脱ぐのに手間取る。
執事は常に広い心でいなさい。そう父に教えられていたのに、いざとなると焦ってしまい手がうまく動かない。
どうにかタイを外してシャツを脱ぐと大きく息を吐く。青年……西川朔哉は顔を上げた。
朔哉の父が、傍らにいるスーツの男に話しかける。父は咲哉と同じ衣服をまとっている。
「いかがですか、暁宏さま。二十歳にしては肉がついていませんが、その分、愉しめると思いますよ」
この日のため毎朝毎晩、外を走り、重りを持ち上げ、筋肉を作ってきた。上半身はなだらかな稜線を描いている。無駄な肉を落としても雄々しい体にはならぬよう、父から注意されていた。
古びた肘掛け椅子に座っている緒方暁宏が、朔哉を眺めている。暁宏はいつも微笑みを絶やさないのに、いまは唇をきつく結んでいる。
父が朔哉に目配せをした。朔哉が口を開いた。
「下も、脱ぎましょうか」
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