第97話『冒険者はいいぞ!』

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第97話『冒険者はいいぞ!』

「ヒョロイカ様、どうにかなりませんか?」  再度、訊ねてくるダスク。 「じゃ、ウチの騎士団に入る? 見たところ戦闘の心得がありそうだし」  見たところっていうか、盗み見たところなんですけどね。  剣術LV4は異世界基準で上位の腕前に入るはず。  ゲッツできたら戦力アップは間違いなしだ。 「え!? あ……大変ありがたいお誘いなのですが、それは個人的な事情でちょっと……」  やっぱり断られたか。  聖騎士の肩書きはそのまんまだし、彼女は国に戻るつもりがあるのだろう。 「だったら冒険者だな。森で魔獣を狩ってきたら結構稼げるぞ」 「ぼ、冒険者ですって? 冒険者に身を落とすなどできませんっ!」  ダスクは激しく拒否反応を示した。 「なんでそんな冒険者を嫌がるんだよ」 「だって、だって、あの冒険者なのですよ? 真っ当な人間のやる仕事ではないのですよ!」  エレンとか貴族の娘だけど普通に冒険者やってたが。 「ヒョロイカ卿、大聖国で冒険者は公国以上に下賤な職種と忌避されているんですよ」  ジャードが横から補足をしてくれた。  なるほど、国ごとで文化の違いがあるのね。  公国でもフランクが冒険者を見下してたが、大聖国だとそれがさらに一般的なわけか……。   彼女の能力なら冒険者としてイイ線いくと思うんだが。 「冒険者も嫌なら鉱夫くらいしかないぞ。農家だと飯は食えるが屋敷の維持はできんだろ」 「こ、鉱夫……」  案の定、ダスクはまた難色を示した。  さて、どうするかと俺が思案していると、 「あーもう、イライラするにゃんね!」  扉が勢いよく開いて白猫娘が入ってきた。  いきなり飛び込んできてどうしたんだ?  あ、コップと菓子皿の載ったお盆を持ってる。 「待たせたにゃん。アイスティーしかなかったけどいいにゃんか?」  わざわざ運んできてくれたのか。  悪いね、ありがとう。 「まったく、さっきから聞いてりゃあれも嫌これも嫌って舐めた女にゃんね!」  白猫娘はテーブルにコップと菓子皿を置きながらダスクに鋭い視線を向けた。  ひょっとして彼女は扉の向こうで話の腰を折らないタイミングを見計らっていたのかな。  黙って聞いてたけど、職種を選り好みするダスクに我慢できなくなって入ってきたみたいな感じか。 「文無しになりかけてる分際ならあれこれ選べる立場じゃないにゃん。お金がないなら選択肢は働くか飢え死にするかの二択しかないにゃん!」 「で、ですが私には聖騎……モニョモニョ……としての立場や矜持が……」 「どんな仕事でも自分が誇りを忘れなければそれは失われないにゃん。口だけ立派で何もしないことが矜持なら無職で野垂れ死ねばいいにゃん」  ダスクに厳しく言い放つ白猫娘。奴隷である彼女からすれば高望みして世の中を舐めているとしか思えないのだろう。突き放した言葉のように思えるが、そのなかには白猫娘の生きてきた実感がこもっていた。 「…………」 「でもほら、公国だと貴族でも人生経験のために冒険者やるやつもいるし。そこまで毛嫌いされる仕事じゃないんだぞ?」  俺は黙ってしまったダスクにフォローを入れる。 「そうですね……確かに今の私は見栄を気にしている場合ではなかったのです。ハッキリ言ってもらったおかげで目が覚めたのです。ありがとうございますなのです」  ダスクは白猫娘に礼を述べ、  そして、 「私は冒険者をやることにするのです! 生きるために! ご飯のために!」  両手をグッと胸元でガッツポーズにして宣言した。 「なら、この町のギルド長は知り合いだから登録のところまでついてってやるよ」  他国の貴族だし、動向はチェックしておいたほうがいいよな。  マジで野垂れ死にされても面倒だし。  ジャードに目線で合図を送る。  通じてるよね? 通じてない可能性もあるから後でちゃんと確認しよう。  意思の疎通が大事だっていうのは今日の教訓だからな。 「うわぁ、かたじけないですぅ……」 「頑張るのにゃん。うっふーん」  覚悟を決めた聖騎士を見てうんうんと頷く白猫娘。  やっぱり、うっふーんは口癖なのにゃんね……。  冒険者ギルドへ行ってバルバトスに話をすると、バルバトスは彼と一緒にニコルコに来たというクレマンスとフェリシテを紹介してくれた。  バルバトスを通じて知り合ったクレマンスとフェリシテはニコルコでパーティを組んで活動しているらしく、次の冒険の際はダスクも連れていって面倒を見てくれるそうだ。 「い、いよいよ私が冒険者に……大丈夫なのでしょうか……」  不安そうなダスク。  能力値的には心配いらないと思うけど。  まあ、いっちょ景気のいい話をして元気づけてやるか。 「冒険者はいいぞ! 上手くやれば何億も稼げるからな!」 「あの店長みたいなこと言わないで欲しいのです……」  げんなりした顔で言われた。  俺の実話なんだが……。
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