Z それぞれの春

9/10
719人が本棚に入れています
本棚に追加
/346ページ
翌朝、皆で朝食を頂いて、少ししてからトーコは大神家を後にした。 心の奥が妙にホンワカしていた。 朝起きて一階に降りると、松田君と夏子がキッチンのシンクに並んでいて、仲良く笑いながら、後片付けをしているのを見たからかも知れない。 (いや、お前も手伝えよって話なんだけど、二人の邪魔をするのもさあ…ゴニョゴニョ byトーコ) そういえば、彼女の夫、アキトは結局、朝になっても実家へは戻らなかった。何でも、例の本社役員の説得に朝方までかかったらしく、会社で少し仮眠して、自宅の方へ戻ることにしたらしい。 先ほどトーコのスマホに着信があった。 今、トーコは昨日と同じ道のりを、逆方向に歩いている。 今朝には満開となった河原の桜が、お日様の光をを浴びて白く輝いている。 昨夜、誰にも見せられなかった心の奥の弱い部分を、夏子さんに聞いてもらえたお陰で、自分は、よりはっきりと腹を括ることができた。 (ナゼか途中から記憶が曖昧なんだけれども) ちょうどこの春の気候みたいに、まだまだ自分たちは不安定だし、不安だって尽きないけれども。 願わくば、互いが同じくらい必要で大切な、そうして高め合っていける、そんな関係をめざしたい。 …なーんて、少し大袈裟に考えたりして。 貴方に私は、これからもたくさん教わることがあるだろう。 でもね、それと同じくらい、私から貴方に伝えたい。 さあ、早く家に帰らなくっちゃ。 アキトさんが、私の帰りを待ってる。 《Z おわり》 《全話 了》
/346ページ

最初のコメントを投稿しよう!