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新しい名前
陽王は服を脱ぎ、ベッド脇の椅子に放り投げた。丁寧に要のパジャマも脱がせて、キスをする。唇に力をいれて閉じていると、フッと笑う気配がした。
「気が強いところも気に入っている。そんな顔は煽るだけだと言うのに」
ムッとして、口を開けたらすかさず舌が入ってきた。目を開けるとニヤニヤ笑っている。
「あんた、性格悪いって言われてるだろう」
口が離れた瞬間に要は言った。すると陽王は驚いたように目を瞬く。
「今まで気付かなかったのか」
呆れたような口調で、馬鹿にされたと気付いた。
「もういい!」
要はもう一度ギュッと目を閉じた。
首筋にキスされて、痛みが走る。何度も何度も場所を変えて。ちょっと痛いくらいで、叫ぶ程のものではないから我慢していたけれど、陽王はキスをしながら要の陰茎を緩く扱いていった。そっちは優しい手つきで、もっと力を入れてほしい。
「んっ……、んんっ……あ……っ」
歯を噛みしめていても声が漏れた。下腹部に力がはいる。
「柔らかい肌だ。肌理も細かいからすぐ鬱血する」
「やっ、もう達きたい……」
要がもどかしくて手を伸ばすと、遮られた。
「どうして欲しい?」
「もっと力入れて擦って――。達きたい――」
要の腰が揺れた。
「まだ駄目だ」
「酷っ、どうして欲しいって聞いたのに」
「もっと気持ちよくなりたいだろう?」
別にいい。この程度で十分だ。そう思って首を振った。
「本当に?」
ウンウンと頷くと、クシャと頭を撫でられた。
「なら、もっと脚を広げて、自分で脚を抱えるんだ」
酷く高度なことを要求されて戸惑う。
「恥ずかしい――」
「ここには我しかいない」
目を開けると、陽王が見ていた。熱い、なんだか自分を獲物のように見ている男の目だ。
「きっとやらないと達かせてくれないんだろうな……」
「よくわかってるじゃないか」
褒められても嬉しくないと、要はため息を吐いた。
「これでいいのかよ」
精一杯の虚勢を張って、要は膝の下に腕を差し込んだ。
「それでいい。そのまま、我慢していろ」
何か小さな瓶からトロリとしたものが零れ、陽王の指を濡らした。
「……それ、何?」
要の願いは達くことなのに、何だか違うことが始まるような気がした。
「潤滑油だ。痛みは嫌いだろう?」
頷くと、陽王はその指を性器でなく後ろの孔に触れさせた。
「そこっ?」
「わかっていただろう?」
そうだ、わかっていた。今から何をされるのかわかっていて、要は脚を上げた。そんな自分が嫌になる。いっそ、殴られても縛られても抵抗したほうがいいのではないかと思った。無理矢理されるのと進んでされるのでは要の自尊心がありようが違う。
いいわけがない。殴られて、縛られて、自分はやりたくなかったと言うためだけに身体を張りたくなかった。最初から陽王はどちらがいいと聞いてきて、優しくされるほうを選んだのは要自身なのだから。
要の逡巡を見てとったのか、陽王は少しだけ待ってくれた。
「挿れろよ」
要はむーと唸ってから、言った。
陽王は宥めるように要の膝にキスをして、要の腰の下にクッションをいれた。
「この方が楽だろう?」
頷くと、陽王は躊躇いなく指を要の尻に差し込んだ。
「んっ――」
「できるだけ力を抜いておけ。儀式の時と違って、香だけだからな」
目を見ひらいた要に、陽王はやはり嫌らしいくらい整った顔で笑って見せた。
要が兆したのは、香のせいだったのだと気付いた。侍女はあらかじめ命じられて香を焚いていったのだ。
「ううっ、あ……、ん」
しつこいくらいに陽王は要のそこをゆっくり開いていった。ねちっこいのか、優しいのかよくわからない。
「これくらいで大丈夫か」
もう達きたいと何度願ったか。陽王は涼しげな顔をして、要の中心を手で戒めたまま達かせてくれない。
「もっ、もうヤダ……」
尻の中は指が掠めるたびに快感が突き抜けるのに、抜けた先が堰き止められているのだからたまらない。
「そろそろいいだろう」
陽王の加減がわからない。もう膝も抱えてられなくなり、陽王が堰き止める手を握って爪を立ててなんとか我慢している。片方の手は、シーツを握りしめたままだ。
「お前、サドだろ! 早くしろよ!」
「……サドが何かはわからんが、侮辱してることだけはわかるな」
「侮辱じゃない。本当のことだ」
要は、ふーふーと上がる息を一気に吐き出した。
「……本当のことを言うのは美点とは限らない」
囁くような声、まるで睦言のように聞こえるのにただの説教だ。
「んぅ、い……たっ!」
説教が続くのかと思ったら、陽王は腰を進めて要の中に挿ってきた。
「息をしろ」
「う、う……、んっく――」
大きい。改めて見ても、酷いでかさだ。他人の勃起した陰茎などみたことのなかった要でも規格外だとわかる。
「子供のように小さいな」
「ばっか……やろ――自分のがデカすぎるだけだろ」
「そこの事じゃない。身体だ。まさか本当に子供なのか?」
「……こんなもの突っ込んどいて、今更、何言って――」
「いくつだ?」
そう言えば要が来たのは誕生日の日だった、と思い出した。
家に帰りづらくて友達と遅くまで遊び歩いて、帰ったらもう皆寝ていた。冷蔵庫を開けるとケーキが残っていて、祝ってくれるつもりだったんだと思って泣きそうになった。起こさないように静かに風呂に入って、パジャマに着替えたところを召喚されたのだ。
「十八。あんた、何でこんなの突っ込んだままそんなこと聞くわけ?」
挿ったまま微動だにしない陽王を見上げて、ああ、やっぱり顔がいいと要は思った。
「馴染むのを待っている。話している方が、身体が緩むだろう?」
ああ、やっぱりそういう男だと思った。短い時間でも有効活用しようという合理性を兼ね備えた男だ。
「……もういいから、そこ離せよ」
結局一度も達かされないままだ。痛みとじくじくした心が悲鳴を上げている。
「そなたの名は何という?」
まだ達かせないつもりかと、要はきつく陽王を睨んだ。腹の中の重い痛みで息もしづらい。
「名前なんて意味ないんだろ? 巫女(アメフラシ)でいい」
父親がつけた名前だから好きじゃない。父親はこんな傲慢な男ではなかったが、要に酷い事をする点ではそっくりだ。いや、父親だってここまで酷い事はしなかった。
「ウミウシとかいったか……?」
「やめてくれ!」
あんな場面で言った言葉をよく覚えていると、要は驚いた。ウミウシは、俺の名前じゃなくて、アメフラシの別名だ……。あんな軟体生物になったつもりはない。
「なら、呼ばれた時に嫌そうな顔をするのをやめろ……」
アメフラシと呼ばれて喜ぶやつなんていない。きっと召喚された巫女(アメフラシ)の誰かが、巫女(アメフラシ)なんていいものじゃない、アメフラシで十分だと思って言ったのだろう。
「巫女(アメフラシ)と呼ばれるのも巫女と呼ばれるのも名前も嫌だ」
とっさに本音を言ったら、陽王はムッとした顔で緩く奥を突いた。
「ひっ! あ、動くなら言えよ……」
「生意気な事ばかり言うからだ」
こんなのは暴力と変わらない。
「あんたも……ううっ、父さんと同じだ!」
陽王に言ってもわからないのに、ただ最低な男だと言いたかった要は思わず叫んだ。
「父親がこんな風にそなたの中に挿るのか?」
眉間に皺を寄せて、陽王は尋ねた。
「変態め! 父さんは、暴力を振るってた……。あんたのこれは、暴力とかわんない……やぁ! やめ……っ、揺さぶるな……っ!」
「思うままに生きられないのはそなただけではない。たとえ、暴力だとしても止めるわけにはいかないのだ」
陽王の言葉をまともに受け止めれば、陽王も嫌々やっているということだ。
「ん……、やっ……やだっ!」
陽王の陰茎は長くて要の腹を破りそうで怖い。ギュッと目を瞑ると、陽王はため息を吐いた。
「……わかっている。そんなに怯えるな」
何がわかっているというのだろうか。陽王は小さく震える要をそっと抱きしめた。
「陽王、怖い……。お腹破れそうで、怖いんだ……」
雷は鳴っていないけれど、気付くと雨音が聞こえた。
「本当に稚い。そなたは、まだ雛のようだな」
陽王はそれから腰の動きを止めて、要にキスをした。
「ひな?」
キスの合間に指が要の胸の先を弄り始めた。怯え、縮こまった陰茎がゆっくりと勃ち上がる頃、何故か腹の中にいる陽王の形がまざまざと感じられた。鋼鉄を突っ込まれたような気分だったのに、それは温かくて肉感があった。
「あ……胸が」
「小さな実のようだ。コロコロして、転がすと楽しい」
尖りきった胸を陽王は啄むようにして愛撫した。無理矢理堰き止められていた陰茎をゆるく扱かれて、要は自然と腰を揺らした。
「あ、あ……ん……」
与えられる快感は心地よく、要の身体から力が抜けていく。
「そうだ。痛みでなく、快感を追え」
「ああっ! んっ!」
痛みしか与えなかった陽王の陰茎が、要の中が解けていくと恐怖の対象ではなくなっていった。
「あ、あ……ああっ! 陽王!」
強い刺激もないままに、要の内部が蠢き、陽王の陰茎を包んで搾り取るように動きを変えた。
「凄いうねりだな――」
陽王の声に、歓喜が混ざる。
「あああ!」
勝手に蠢く要の身体の中で、陽王はほとんど動かないまま要の中で弾けさせた。
「名前、好きじゃない……」
「ん?」
「俺の名前、好きじゃないんだ」
上がる息を整えながら、要は正直に白状した。
陽王は、少し考えるようにしてから、口を開いた。
「青、と言うよりも碧(あお)だな……、そなたの瞳の色だ。これからそなたは、碧(あお)と名乗るがいい」
「碧? 俺の瞳は黒か、茶色だと思うけど」
召喚された巫女(アメフラシ)には通訳機能があるようで、微妙なニュアンスも正確に伝わった。
要は、生まれて十八年、外人さんと間違われたことなどない。
「深い湖のような碧だ」
にわかに信じがたいことだけど、この世界は要の知る世界ではない。瞳の色が変わることもあるのかもしれない。名前を変えて生きるなんて考えたこともなかったけれど、碧と呼ばれることで父のことを思い出さないというのはいい考えかもしれない。
「あんたも碧じゃないか」
こんな綺麗な碧なんだろうかと、陽王の目を覗き込んだ。
金髪碧眼で偉丈夫とは、こういう男をいうのだろう。
「我の一番好きな色だ。自分の目が好きと言っているわけではないぞ。私の目の色は少し違う。蒼だな。空の色だ」
陽王は慌てて付け加えた。この顔でナルシストは似合いすぎて笑えない。
目を覗き込むと、確かにスカイブルーというのがぴったりの青だ。この国は色が沢山あるのかもしれないと思った。青といっても一つじゃない。
「綺麗だな……」
素直に思ったことを口にしたら、陽王は少し笑った。やっぱりナルシストなのかもしれない。
「我は、この地位に就いている間は、本来の名を明かせぬ。他のものも我の名を呼ぶことはできない」
「陽王っていうのは、名前じゃないのか?」
そう言えば、侍女達も美海のものたちと呼ばれていた。同じように陽王のものたちもいるのだろうか。
「役職だな――。名と言えば、名だが……」
「ふうん。あんたは、陽王って名前が似合ってるよ。お日様の髪の色で王様みたいに偉そうだもんな。碧でいい。……ありがとう」
別に呼び名なんてどうでもいい。名前で呼びたいと思うほど陽王のことが好きなわけじゃない。
名前が変わったことで気分がよくなった要、いや碧は、ふふっと声を出して笑った。それを見た陽王が変な顔をする。驚いているような、碧を探るような表情だ。と思ったら、突然陽王が、いや陽王の陰茎が兆した。
ググッとお腹の中で硬度を増していくのを感じて、碧は戸惑った。
「あっ、もうっ、お前って絶倫ってやつだろ。お前がそんなだから、女の子じゃ可哀想だと神様が思った
んじゃないの?」
気分が軽くなったせいもあって、思わず碧は軽口をきいた。
陽王は、「そうだな、絶倫も悪くない」と口の端に笑みを浮かべて、碧の膝を抱えた。
碧は、そこで自分が失言したことに気付く。
「ああっ! やだ……くるしぃ――。もう、いらな……」
先ほどとは違って、陽王は柔らかくなった要の中を楽しむようにリズムよく抽挿を繰り返した。鼻歌でも歌っているかのように機嫌がいい。
「我を離そうとしないのは自分だということに気付いていないのか?」
ギリギリ抜けるかと思うほどのところまで引き抜いて、陽王はそう言った。
「っん――、ゾクゾクする。あ……やあぁぁぁ!」
一気に奥まで内壁を抉るように押し込めた陽王を、碧の腹は逃すまいと収縮して搾り取ろうとする。
「ん……、碧」
キスされた。達ってるときにされると舌を噛みそうで怖い。
「あっ……あ……」
吐息も全て陽王に食われて、碧は魂が抜けるほど達かされた。
今日も世界に雨が満ちていく。
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