箱 ――指輪――

5/6
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 それからまた忙しくなって、彼とは連絡も取れなくなって。  何週間かして、やっと休みができたから、彼の部屋まで逢いに行ったのよ。  そしたら彼、もういなくなちゃってて。  服とか食べ物とか残したまま。    でね、彼が毎晩寝てた箱の底に転がってたのが、この指輪なの。  詳しいひとに聞いてみたら、二重らせんの指輪本体は銀。  その螺旋の隙間にはめ込んである小さな丸い石ね、紫がアメジスト、赤はガーネット、黄色はクリュソライト(橄欖石)、水色はトパーズ・ブルーだって。    しばらくして、彼の家族が部屋の片づけに来たの。  行先は、彼の家族も何も聞いていないし、そのままにはしておけないって。    それで、彼と仲がよかったあたしに、この指輪をくれたのよ。  サイズも、何故だかあたしにピッタリで。  あ、そういえば彼ったら、いなくなる前に、あたしに言ったのよ。  ――この世の中、中身のないものが多すぎる。ぼくは、中身になりたい――  ……なんて。  じゃああたしは何だってうのかしら?   失礼しちゃうわ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!