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それからまた忙しくなって、彼とは連絡も取れなくなって。
何週間かして、やっと休みができたから、彼の部屋まで逢いに行ったのよ。
そしたら彼、もういなくなちゃってて。
服とか食べ物とか残したまま。
でね、彼が毎晩寝てた箱の底に転がってたのが、この指輪なの。
詳しいひとに聞いてみたら、二重らせんの指輪本体は銀。
その螺旋の隙間にはめ込んである小さな丸い石ね、紫がアメジスト、赤はガーネット、黄色はクリュソライト(橄欖石)、水色はトパーズ・ブルーだって。
しばらくして、彼の家族が部屋の片づけに来たの。
行先は、彼の家族も何も聞いていないし、そのままにはしておけないって。
それで、彼と仲がよかったあたしに、この指輪をくれたのよ。
サイズも、何故だかあたしにピッタリで。
あ、そういえば彼ったら、いなくなる前に、あたしに言ったのよ。
――この世の中、中身のないものが多すぎる。ぼくは、中身になりたい――
……なんて。
じゃああたしは何だってうのかしら?
失礼しちゃうわ。
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