対決と成功と彼がいない夜

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「たいへん遅くなり、申し訳ございません。こちらの花材が先ほど届きましたので」 控室でお弟子さんたちと談笑していた家元はゆったりと立ち上がり、入口のワゴンのところまでやってきた。 箱を開けて花材を見る前に、彼女は白川花壇の社名に目を留め、おや、という表情を浮かべた。そして彼女はにっこりと微笑んだ。 「今回は大丈夫ね。箱を見ればわかります」 朝から走り回っていたせいか、私はわっと泣き出したい気分に襲われた。こんなの、不意討ちだ。白川花壇のことを今もこんな風に信じてくれる人がいるなんて。 「この時間に届いたということは、きっといろいろあったんでしょう。しかもライバル社の花を入れたということで、だいたいなにがあったかわかります。私のせいでたいへんな思いをさせちゃったわね」 「いいえ……とんでもないことです。遅くなりまして、本当に申し訳ございません」 控室を退出してまた走る。開演までもうわずかな時間しかない。
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