さよならは好きの証明

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さよならは好きの証明

  「家元、本当に絶賛だったよ。白川さんのお花がね、ただ者じゃないって。お客さんたちも華道会場の花より茶道会場の花のほうに群がってたしね。あと家元は着物のチョイスが礼節をわきまえてるって感心してたよ。引くべきところを心得てるし、周囲を立てて選んでいて、それでいて美しいって」 「そこまで褒めていただけるようなものではなかったかと……たぶんあちらにご立腹だからです」 数時間後、銀座のダイニングバーで、私は橘部長の声をぼんやり聞いていた。きちん返事は返し、顔には笑みを貼りつけているけれど、心は虚ろだ。 イベントの撤収が終わったあと、橘部長が今回の仕事を労って飲みに連れ出してくれたことは覚えているけれど、綾瀬花音と最後の挨拶をしたあとどうやって仕事を片づけたのか、記憶が定かでない。 「英語で茶の湯のことも説明してくれたって感謝してたよ」 「あれは……茶道を本格的に学んでいないので、あれでよかったのか……」 「綾瀬花音さんのことはボロクソだったな。花模様のゴテゴテの着物で、花より自分が目立ちたい時点で失格だって。華道といい日本文化を欠片も理解していないし、あれではこの先はないでしょう、とね。少なくとも茶道界からは今後締め出されることになりますって言ってたよ。家元、なかなか怖いね」 綾瀬花音という名前を聞くと、私は目の前のグラスの残り僅かなカクテルを飲み干した。甘くておいしいけれどアルコール度数が高いらしく、頭がぼうっとしてきた。
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