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項垂れるように頷く。
伊三郎はいつもふくりにその話を聞かせていた。
ふくりは手合わせで一度もみくりと仁吉に勝ったことがない。
むしろ、反撃をすることもなく負けて終わることが多かった。力を使って争うことに抵抗があったのだ。
とぼとぼと社頭を横切り、手水舎の影に隠れたふくりは体に顔を埋めて丸まった。
いつも伊三郎に呼びだされた時は、決まって気持ちを立て直すまでどこかに隠れていた。
────このままでは神使が務まらないということは重々承知している。
しかし、どうしても自分が出した狐火を、ふくりや仁吉に向けて放つことができないのだ。いずれはそれを同胞に向けることになるかもしれないと思うと、余計に委縮してしまい何もできなくなくなるのだ。
弱い自分に嫌気がさす。情けなくて惨めだった。
深い溜息を吐く。目頭がじわじわと熱くなった。
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