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魏軍の中で最初にその異変に気づいたのは炊き出しに追われている輜重兵だった。 小高い林からゆったりと騎馬が溢れ出てくる様を偶然目にした。 「なんだ、こんな朝早くから増援がくるのか? 聞いてないが朝飯がいるなら増やさないといけないなー」 「いや、増援なんてきいてないぞ。 もしかして敵襲か?」 相方の輜重兵が鍋から目を離さず声だけ返した。 「馬鹿いえー。 秦軍はどっか西の城で韓軍とやりあってるんだろ? こっちにこれるわけないじゃん」 そういい言いながらおたまをふった。 その騎馬隊はゆっくり緊張感なく近づいてきて、おざなりに立てられた柵をなぎ倒し軽々と野営地の内側に侵入してきた。 その様子を見て輜重兵はおたまを落とした。 と、同時に王京の槍に胸を貫かれた。 野営地に侵入した騎馬隊は目の前の兵士を蹴散らしながらも中心にある幕の集団に向けて加速し出した。 そのスピードを更に煽るように蒙布が単騎で突出しようとしている所を王京は幅寄せして制した。 「蒙布、少しスピードを緩めろ。 これでは早すぎる」 「それでは将軍に逃げられちまうぞ」 「かまわん。それも作戦のひとつだ。 少しコースを変えるぞ」 そう言うと不服そうな顔をする蒙布を横目に王京は進行方向を少し右に湾曲させた。 「おー、さすが王京。 上手く時間稼ぎをしながら進んでいる」 額に手を当て兵車の上から遠くの騎馬隊の進行を確認しながら白起は軽く笑った。 「では我々も本腰を入れて仕事にとりかかろう」 そういうと、すでに戦闘に入っている歩兵団の前線に兵車を進ませ細かな指示を出し始めた。 歩兵団は半円の隊列を広げながらも大きくなりすぎないよう動きながら、無防備な魏兵を殲滅していく。 足場の間隔を保ちながら、伍を崩さず一対一の場面を作らない連携を維持しつづけながら前進した。 その上、武装をしていない兵ばかりなので戦闘という戦闘にはならず、ただただとどめを刺していく波となっていた。 「前列交代、後列前へ。 入れ替えと同時に左に少し寄るぞ」 白起は大きな声で指揮棒をふった。
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