“心”の行方

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「……あんたまさか、このために……」  声を震わせる男に、航は何も言わない。  昴が渡した四つ葉のクローバーは、確かに潤が関与したものであるために、処分は避けられなかった。  だけどその間に航が入り、その力をもって対象物の形を変えたとしたら……それは、全くの別物となる。 「……屁理屈です。そんなの」 「でも現に消えてない」 「だからって」 「(ゆたか)」  航の静かな声に、男の薄い唇がぴたりと止む。  悔しさを隠せない素直な彼の表情が泣きそうに歪んで、それからふと、足元の水が蹴り上げられた。 「どうなっても、知りませんから」  細い足首を飾る金の装飾が、しゃら、と揺れる。  航は降りかかった水を払うでもなく、その背後で光を纏い始める空気に、1度大きく翼を打った。 「覚悟はしてるさ」 「俺、庇いませんよ」 「知らない顔してくれてたら、それでいい」 「……出来ないの、知ってるくせに」  豊の曖昧な立ち位置を示す鈍色の翼が、もう1度考え直せと訴えかけるように小さく震える。  航はそれに何も言わず、返事としては充分な苦い笑顔だけを残して、その体を空へと投げ出した。 「転生したいなら、それくらい出来ないとな。ほら、対象者がそろそろ起きる。あと頼んだぞ」  ゆっくりと光の繭に包まれていく潤を顎先で示し、航はそのまま、月の浮かぶ夜空を駆け上がっていく。 「……あんたと、転生したいんだっつの」  豊の独り言は、どこにも届かなかった。  御影 航という存在だけを追いかけてこんなところまで来た意味が、本人にはちっとも伝わらない。  鈍感。バカ。間抜け。思いつくだけの悪口を心の内で並べ立て、豊は最後にベッと舌を出す。 「……、あの……」  月も星も眠るような静かな夜。雨が降る。  航が飛び立ってからしばらくして聞こえたその声を、豊は、待ちくたびれたように振り返った。  似ていない。航とは、似ても似つかない。  それでもあの人の頼みなら、仕方ないのだ。  豊は荒れ狂う心情を深呼吸で抑え、金色の頭飾りを揺らしながら、とびっきりの笑顔を見せた。 「初めまして。魂案内係の、光山(みつやま) (ゆたか)です」
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