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翌日、涼介さんと2人で近所の産婦人科を訪れた。受付を済ませてドキドキしながら待合室で待っていると、何だか見覚えのある2人がいる。
「あれ……?」
「ん?」
「あの2人、どこかで……」
「?」
ジッと見つめていると、こちらを向いた2人の顔に一気に思い出した。
「あ!」
あの時の新婚さんだ!
思わず大声を出してしまった私は、周りの注目を一斉に浴びて恥ずかしくなった。当然その2人にも驚かれてしまったようで、バッチリと目が合う。
「綾音?」
「ごめんね、急に大声出して。涼介さん、覚えてる? 新婚旅行の時に、ホテルが一緒だった新婚さん」
その言葉で思い出したのか、涼介さんの顔が渋い表情になった。涼介さんにとっては、いい情報では無かったみたい。
「あの……」
私達がコソコソと話していると、例の2人がいつの間にか目の前に来ていた。
「以前旅行中に、飛行機とホテルが一緒でしたよね?」
「はい……!」
覚えていてくれた事が嬉しくて、思わず笑顔になる。でも、旦那さんの方は分からないようで怪訝そうに私達を見ていた。
「誰?」
「前に言ったでしょ。新婚旅行の時に見かけた素敵なご夫婦だよ。飛行機とホテルが一緒だったの覚えてない?」
「俺が興味あるの、愛する奥さんだけだから」
「人前で何言ってるの、もうっ」
……この旦那さん、涼介さんに似てる気がする。
隣に座った彼女と、周りに迷惑にならないように会話をする。どうやら彼女も妊娠の検査に来たらしい。小声で話をしていると、まずは私が呼ばれた。
「泉さん、どうぞ」
「あ、はい。じゃあ、お先に」
彼女達と別れて、検査と診察を受ける。その結果……
「おめでとうございます。妊娠されてますよ。今3か月に入った所ですね」
先生のその言葉に、涼介さんと顔を見合わせた。あまり笑顔を見せない彼だけど、嬉しそうに笑っている。
幸せな気持ちで待合室へと戻ると、丁度入れ替わりで彼女達が診察へと呼ばれた。どうか彼女達にも、赤ちゃんがやってきていますように……!
会計を待っていると、診察を終えた2人が出てきた。
どうだったんだろう。聞きたいけど、もし違っていた時が気まずい……でも、そんな心配は杞憂だったようで、幸せそうな笑顔を見る限りきっと妊娠していたに違いない。
私達がまだ居る事に気付いた彼女は、席まで来てくれた。
「あの……どうでした?」
「今3か月に入った所らしいです。そちらは?」
「私もです! あ、もしかして……あの旅行で?」
「ふふっ。お互いにハネムーンベビーですね」
「あ、やっぱりそうなんですね」
偶然が重なった事もあり、何だか気が合ってしまった私達は、これをきっかけに連絡先を交換した。
お互いに同じ時期の妊婦。加えて彼女は看護師でもあるから、色々と相談もしやすくて。年齢は違うけど、気の合う友人が出来たことがとても嬉しかった。
……のだけど。それがちょっと面白くなかったのが、私達の旦那様。
休日になると、ベビーの為のグッズを買ったり一緒にお出かけすることも増えた私達に、旦那様達から少しばかり……いや、かなりお小言を言われた。
「綾音、最近俺と出かけてないの気付いてる?」
「えっと……そう、だっけ……?」
「今週は俺と一緒に居る事」
「えっ、でも……」
今週も、約束してるんだけどな~……
「綾音は、俺のでしょ?」
「そうだけど。相手は女性だよ?」
「だめ。俺と一緒に居て?綾音と居れないのは、寂しい」
そう言われてしまうと、さすがにそれでも行きたいとは言えなくて。旦那様を優先しようと彼女にキャンセルの連絡をすると、どうやら彼女の方も同じ状況だったらしい。
『旦那さんに、最近休日に1人で過ごすことが多くて寂しい、って言われてしまって……子供の準備も俺が一緒にしたいのにって。すみません』
そのメッセージを見て、やっぱり似た者同士な旦那様を持っているんだなと再認識した。
それからの私達は、旦那様の相手もちゃんとしつつ、たまにお出かけをしては妊娠中の悩みや出産の事なんかを話し合っていた。
そして性別が確認できた頃、両親学級の話になった。
「一緒に行ってみませんか?」
彼女にそう誘われて、早速涼介さんに相談してみる。
「どうかな?」
「行くのはいいけど」
「けど?」
「……彼女達も一緒なんでしょ」
何だか少し拗ねたような言い方に、思わず苦笑する。
「別に一緒でもいいじゃない。私の旦那さんは涼介さんで、この子のパパは涼介さんでしょ。涼介さんと参加することに意味があるんだよ」
「……ん」
ぎゅぅっと抱きしめてくる彼はどことなく嬉しそうで、ちょっと機嫌が直ったみたいで安心した。
近づいて来る彼の気配に目を閉じながら、心の中だけで苦笑する。亜理紗ちゃんの時といい、同性にもヤキモチ焼くなんて、嬉しいような困っちゃうような。
翌日、彼女の方も旦那さんからOKが出たということで、同じ日に参加を申し込むことにした。
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