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Pologue
暗く半分だけ閉ざされた視界に突如一条の光が射す。
それで初めて自分がまだ生きていると判った。
「君、名前は…?」
突如降ってきた、誰かも知らない女性の声、殆ど何も考えず答えたつもりだったが自分の声は聞こえない。
代わりに聞こえたのは水の中に溺れていく様なごぼごぼという音。
不意に胸が痛んで、何か鉄錆臭い液体が喉元から迫り上がって口から溢れた。
息が出来ない、苦しい、助けて。
思っても声すら出ない。
何処か近くで甲高い電子音がした。
慌てたような女性の声がその後に続く。
手を何か暖かい物で包まれるような感触と共に彼女がしたのは質問。
「君は、何かを失っても生き延びたいか…?もしもそうなら私の手を握り返してくれ、違うなら手を離せ。」
消えそうになる意識の中で脳裏を過るのは、死んだ家族の口癖だった。
―――死なんでな、最後まで生き延びて――――
自分がどう答えたかなんて覚えていない。
確かなのは、口に突っ込まれた管の苦みと何かを吸い出される感触。
それを最後に自分の意識は再び闇の中へ戻っていった。
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