子子の湯

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自慢じゃないが、俺の実家は結構立派な分譲マンションにある。 だけどそんなことまで言う必要もない。 「結局、安藤がビラ配ったのはそのアパートだけだったんだろ。そこにフィリップが住んでるって、よっぽど縁があるのか」 ずっと黙っていた王子が珍しく口を挟んできた。 あまりに待ち長くて退屈してきたんだろう。 ここは山奥の温泉宿。 周りには自然しか見えない。 こんな場所に連れてこられた挙げ句、部屋に案内されることもなく、かれこれ一時間近く放置されたままだ。 「それにしても遅いですよね、添乗員さん……」 部屋の案内をする前に説明することがあるというのでロビーで待っている俺たち四人。 ツアーという割には参加者少なすぎじゃないか? しかもアンディはビラをもらった方じゃなく配った方だろ。 そうか、読めたぞ。 元々、霧島と旅行したいがためにバイトしてたんだから、このモニターの話は好都合だったわけだ。 アンディと王子がどうしてこのツアーに参加してきたのか不思議だったけど、妙に納得した。 「大変お待たせして申し訳ありません!」 突然入り口の引き戸がガラガラと音をたて、一人の女性が慌てた様子で入ってきた。 「私、『CA(きゃ)っ!トラベル』添乗員の、『伽虎(きゃとら)(べる)』と申します」 きゃとら、べる……? 変な名前だな。
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