12話

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「ああ、嫌だわ、私ったら…ごめんなさいね。あの家の行く末を思うと、どうしても残念でならなくて…あなたは私のとりとめのない昔話を聞きに来られたわけじゃありませんのにね。そうそう…昔のメネスカル家のことでしたね。どのようなことでしょう?」 ジェインは気を取り直したように笑みを浮かべると、ロシュアに用件を促した。 「実は…ネイヴ様のご姉弟について、伺いたいことがあります」 「ネイヴ様の…?」  ロシュアが頷くと、彼女は怪訝そうに首をかしげた。 「ネイヴ様のご姉弟はもう皆様、亡くなられておりますが…」 「ええ。存じています。彼には三人の姉君がいらっしゃいましたよね」 「ええ…」 「彼の姉の一人に、ヴェリカというお名前の女性がいらっしゃいましたが、あなたは彼女のことをご存知ですか?」  ジェインが息を呑んだ。その目は大きく見開かれ、笑みが消える。 彼女の瞳には、まるで亡霊を見たような驚きが浮かんでいた。  時が止まったかのように固まっていたジェインは、我に返ると何度か頷く。 「ええ、ええ…ヴェリカお嬢様ですね。もちろん存じております。ダンネ様の二番目のお嬢様ですわ。ごめんなさい、驚いてしまって…あまりにも、その…いえ、なぜあなたがヴェリカ様のことを…?」 「その問いに答えるには、先に説明が必要になるかと思います。ジェインさん、あなたはウォーレンルース家という家をご存じですか?」 「ええ、はい。もちろんですわ」 「では…最近、当家が再興したことは?」 「新聞で拝見致しました。新しいご当主は…とてもお若い方でしたね」 「はい。それに伴って先日、ウォーレンルース家で祝宴が行われました」  真剣な面持ちで自分を見つめるジェインの視線を受け止めながら、ロシュアは話を先に進めた。 「その招待客の半分以上は、かつて当家と親交のあった家々から招きました。もちろんメネスカル家にも招待状をお送りしました」 ジェインが口元をほころばせた。 「旦那様は出席されたのでしょうか。お嬢様達もさぞ喜ばれたでしょう」 「いえ、それが…当家の方は欠席されました」 「あら…そうだったのですか」 「はい。しかし祝宴の晩、メネスカル家宛ての招待状で若い女性が現れたのです」 「女性…?」 「ええ。そしてその女性が、ヴェリカ・メネスカルと名乗ったのです」  ロシュアの説明に、彼女が強く眉をひそめた。 「その方は…どなたですの?なぜヴェリカお嬢様のお名前を…?いいえ、それよりも…その方はヴェリカお嬢様ではありませんわ。先ほども申し上げましたが、お嬢様はもう、とうの昔に亡くなっております」 「ええ。存じております。まだお若かったと…」 「はい。ヴェリカ様がお生まれになったのは今からもう…90年ほども昔のことです。当時のご当主、ダンネ様とその奥様の二番目のお嬢様でした。ご姉弟は上から、テセラ様、ヴェリカ様、エレア様、そして末に坊ちゃんのネイヴ様です」  記憶を手繰るように目を閉じると、ジェインは再び口を開く。 「私は十代の頃にあのお屋敷で働き始めました。ヴェリカ様は私と歳が近く、とても親しくして下さいました。私はお嬢様の身の回りのお世話をさせて頂いたこともあります。とても愛らしい方でした。ですが…」 一拍の空白の後、彼女は震える声で言葉を継いだ。 「お嬢様は生まれつき体が弱く…今思い返しても、短すぎる生涯でした。できることなら代わって差し上げたいと思ったほどです」
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