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パねぇ世界
夏休みも半ばを過ぎたある日の朝。冷房の効いた部屋で惰眠を貪る俺を夢の世界から連れ出したのは、妹である飛鳥(あすか)からのLINEだった。
『大変だにーちゃん。今帰る。待てって』
誤字の確認もせずに送信している辺り、それなりに大変なことが起きている様子。だが、アイツはしょうもないことでよく騒ぐので、少なくとも怪我をしたとか生死に関わるようなことではないだろう。俺は寝惚け眼を擦りつつ、妹のことを思い返す。
飛鳥は、小学四年生になる。俺は高一なので、これくらい年が離れていれば可愛いものだ。女の子なのにお淑やかさに欠けているところが、兄としてはここのところ心配だったりする。とにもかくにも、遊び盛りの仔猫のように活発なのだ。男の子と遊ぶことの方が多く、夏休みに入ってからは小麦色の肌を毎日のように泥だらけにして返ってくる。今日もラジオ体操に向かったその足で、虫捕りに行ったはずだ。察するに、何か珍しい虫でも捕まえて報告してきたのだろう。
妹の帰りを待つべく、仕方なしに身を起こして■ジャマ代わりの古いTシャツを脱ぐ。着替えて部屋を出て、キッチンにて食■ンに余りものの■プリカとアス■ラガスを切って乗せ、チーズで蓋をしてトースターで焼く。テレビをつけると、東京の動物園で生まれた赤ちゃん■ンダの名前を募集しているという内容が流れていた。
窓を開けると、ムワッとした空気が室内に入り込む。今日も暑い。ア■ートから見下ろす先では、ご近所さんが■グを散歩させていた。
それにしても、先ほどから何か妙な気がする。
「ただいまー!」
帰宅するなり、飛鳥は冷蔵庫を開けて作り置きの麦茶をラッ■飲みした。推測通り怪我などで『大変だ!』と連絡してきたわけではないことがわかり、一先ずホッとする。
「さっきのLINEは何だったんだ? カブトムシでも捕れたのか?」
「カブトムシどころじゃないって! もっとすっげーのっ!」
手洗いうがいに向かった洗面所から、興奮気味の声が飛んでくる。逃げ出して野生化したヘラクレスオオカブトでも見つけたのだろうか。俺はテーブルの上に置かれたプラスチック製の蛍光グリーンの虫籠を覗き込む。
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