手紙

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      大学に入り半年。ようやく免許を取った兄が、バイト代をはたいて買った美しい白銀のオートバイで、意気揚々とツーリングへ出かけた。  近場のダム湖まで山道を走らせ、紅葉に染まる湖をバックに満面の笑みでパシャリ。  家族全員に送りつけられたその写真が、兄の遺影になった。  山から下りた帰り道、家の近くまで差し掛かったところで、何があったのか道端の郵便ポストに突っ込み、救急車で病院へと運ばれたのだ。  ポストごと民家の壁に激突したバイクはぐちゃぐちゃに潰れ、兄の血で白銀の車体は真っ赤に染まっていた。  事故現場は直線道路で見通しもよく、当日は快晴、風もほとんど吹いておらず、兄がなぜノンブレーキで縁石を飛び越え、そのままポストに突っ込んだのか、未だに分からない。  ただ、目撃者が言うには、何かに驚いたように叫んだ瞬間、急ハンドルを切った……と。    家族の祈りも、懸命な治療も奇跡は起こせず、一週間後、兄は脳死判定を受けた。  ドナーカードを持っていた兄の臓器は取り出され、(やまい)で苦しむ人々の下へと、去っていった。  そしてしばらく経った頃、兄宛に一通の手紙が届いた。  カエルのキャラクターが描かれた可愛らしい便箋に、(つたな)い文字で、 「おにいちゃん しんぞうありがとう」  そう(つづ)られている。  ああ、兄は誰かの命を救うことが出来たのだと、喜んだのも束の間、ふと消印を見ると、それは……  事故当日の物だった。  
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