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「仁科さんが来たら、渡して欲しいって頼まれてたんだ。この絵と仁科さん、そっくりだからすぐに分かっちゃった! 明日、誕生日なんでしょ?」
必死に涙を堪えながら、無言で頷く。
「お祝い言えなくてごめんねって朔羅ちゃんが。でもこのタイトル……変わってるよね。手紙なんてどこにも無いのに……えっ、仁科さん!!」
弾かれたように、美術室を飛び出して元来た廊下をまた全力で走っていた。背後から三つ編みヘアの女の子の声が聞こえた。
胸の中が嬉しさと苦しさと、ぐちゃぐちゃの感情で溢れて。押し出されるように、涙が止まらなかった。
「ありがとう」すら言えなかった。
「行ってらっしゃい」も言えなかった。
いつも当たり前のように朔ちゃんの手紙を待って、私は朔ちゃんが喜んでくれそうな写真でお礼や気持ちを返した気でいた。
絆があれば言葉はいらない。
想いを込めたら勝手に伝わる。
それは臆病な私の逃げ道だった。
言葉に。切り取った一瞬に。
責任が持てないからだ。
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