ずっと欲しかったもの

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そしてまた、希さんの柔らかい身体に腕を回す。何度こうしてもその度に愛しさが胸に溢れてくる。こうなったらもう『付き合ってください』と伝えるのが筋だろう。順番が違うのはこの際無視だ。 でもその前に、私にはまだ重要な課題が残っている。交際を申し込むのはその課題をクリアした後だ。 「あのさ……、私も希さんに謝らなきゃいけないことがある」 「謝るようなことじゃないよ。私が悪いんだから」 薄々分かってはいたけど、やっぱり希さんは気付いていたようだ。 「……気付いてた?」 「っていうより、逆の立場なら私もそうするかなって」 希さんは以前、一度だけ嫉妬みたいな言動を見せたことがある。それ以降は全くそういう素振りを見せなかったから、希さんにとっては大したことではないのだと若干開き直っていた。 でも、実は私が思っていたよりも傷付けていたのかも知れない。そう考えたら申し訳ない気持ちでいっぱいになった。 これはもう、一刻も早く優衣に接触しなければならない。 「ちゃんと話すよ。相手に」 「恋人?」 「ただのセフレ。最低だね」 本当に最低だ。 知らず知らずのうちとはいえ、私は希さんを傷付け、そして優衣も傷付けた。私自身は自分を傷付けないように2人に甘えていただけ。全部自分の弱さが招いたことだ。 「希さん、待ってて」 「ん?」 「全部ちゃんとしてから伝える」 私はその2日後、希さんに残業で遅くなると嘘をつき、21時前に優衣の部屋を訪ねた。 アパートの部屋に電気が点いているのを確認し、今日こそはと別れの覚悟を決める。 もし追い返されたら、一方的にメールしてでも自分の覚悟を伝える。反応がなくても自分の中で全てを終わらせる。 部屋のインターホンを鳴らし、ドアが開くのを待った。 そして、ドアの向こうから顔を覗かせた優衣は、しばらく考え込んだ様子を見せたあと、ドアのチェーンを外してくれた。
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