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18話
あれから4年。
私達の間には、咲夜さんによく似た一人の男の子が居る。
「パパ、まぁだ?」
「もうちょっとしたら帰ってくるよ。良い子で待ってようね。」
「あーい。」
パパが大好きで、特に星のお話を寝る前に聞くのが大好きな息子。
今日は夜間投影の日だから、帰りが少し遅くて、待ちきれないのかソワソワしてる。
微笑ましくその様子を見ながらリビングのソファーに座ると、飾ってある結婚式の写真が目に入った。
ーーーーあのプロポーズの後。
私達は、お互いの両親に結婚の報告をした。
私の両親は、咲夜さんの人柄に凄く安心して、でも同時に寂しがっていた。
うちは3姉妹だから、まだ2人も妹がいるのに。
妹達も、咲夜さんのことは気に入ったらしく、「お義兄さん優しい!」「眼鏡イケメンじゃん!」と喜んでいた。
彼の方は、お母様が小さい頃に亡くなっているから、お義父さんに結婚の報告をすると、一人息子の結婚をとても喜んでくれた。
そして、咲夜さんがどうして星が好きになったのか、何故お祖母さんとお祖父さんの家に住んでいるのか、初めて理由を知った。
咲夜さんは、彼を育てる為に忙しく働くお義父さんの代わりに、お祖母さんとお祖父さんに育てられたんだそう。
そして、彼が星に興味を持ったのは、お祖父さんの影響なんだとか。
この家で一緒に星を見ていたんだ、と懐かしそうに、ちょっと寂しそうに言っていたのが、とても印象に残っている。
「だから、この家にどうしても住みたかったんだ。」
思い出の沢山詰まったこの家を、どうしても手離す気にはなれなかったんだろう。
「だから、結婚してもこの家に住みたいんだけど…ダメかな?」
「ううん。ここがいい。」
私にとってもここは、もう既に咲夜さんとの思い出が詰まっている。
「良かった。でも、子供が出来たら手狭にはなるから、増築とか改築とかは必要になるかなぁ。」
「そうだね。その時は、また2人でどうするか考えよう。」
「うん。ありがとう。…本当、陽花里と出会えて良かった。」
その時の幸せそうな顔は、今でも鮮明に思い出せる。
その後は、結婚式の準備で忙しくなったけど、2人にとってそれは、幸せな悲鳴だった。
披露宴で絶対に外せないテーマが、夜空と星だったから、プランナーさんと頭を悩ませながらあれこれ工夫したのも、今ではいい思い出。
当然選んだドレスも、濃紺にラメが流れるように線で入っていて、まるで流れ星に見えるもの。
私が彼にプレゼントした家庭用プラネタリウムも、一役買ってくれた。
私達の馴れ初めを知っている好美さんは、その披露宴に感動して号泣してくれてたっけ。
懐かしいな、なんて思い出に浸っていると、外で車のエンジンが止まる音がした。
「パパ!」
待ちきれない、と玄関に走る息子を追いかけて行くと、丁度玄関が開く所だった。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「パパ!」
「瑠宇、ただいま。」
大好きなパパが帰ってきて、抱っこしてもらった息子は大興奮。
キャッキャッと喜んでいる。
「すごいハイテンションだね。」
「咲夜さんが帰ってくるの、待ちわびてたからね。」
「そうなんだ。」
「パパ、あっち!」
指し示しているのは、寝室。
早く話をしろ、ということだろう。
「瑠宇、せめてパパがご飯食べるのは待ってあげよう?」
「ごはん?」
「そう。パパお仕事から帰ってきたばかりだから、お腹ペコペコだと思うの。パパがお腹空いてるのは可哀想でしょう?」
咲夜さんをチラッと見た後、私を見て頷いたこの子は、彼に似てとても優しい子に育ってると思う。
「偉いね。パパが食べ終わるまで、ちょっと待ってあげようね。」
「あい!」
とてもいいお返事をしてくれた可愛い息子の為に、咲夜さんは私が食事の準備をしている間に入浴を済ませ、食事も短時間で終わらせた。
親子3人でベッドに入ると、楽しみにしていた星のお話の時間に、瑠宇は大はしゃぎ。
毎回、神話を子供でも分かりやすいように話してくれるこの時間を、密かに私も楽しみにしていたりする。
咲夜さんの話し方は、絵本の読み聞かせみたいで本当に上手だから、この子がこの時間を大好きなのも納得できる。
「昔々ある所に、アンドロメダという、とても綺麗なお姫様がいました。人々の評判になるほどの美しさに、お姫様のお母さんは、自慢ばかりしていました。そんなある日、娘の自慢ばかりするお母さんに怒った海の神様が、大きな大きなクジラに、そのお姫様を食べさせようとしました。」
「お姫様、食べちゃうの?」
「ううん。大きな大きなクジラがお姫様を食べようとした時、空から馬に乗った王子様が現れたんだ。王子様は、魔法を使ってクジラを石に変えて海の底に沈めてしまい、お姫様を助けました。お互いに一目惚れした王子様とお姫様は結婚して、幸せに暮らしました。」
そのお話を聞いて、テンションマックスの瑠宇。
寝かしつけの話のはずが、中々寝なかったけど、違うお話をしながらトントンしていると、いつの間にか眠っていた。
「…寝たね。」
「そうだね。今日はなかなか手強かったな。」
苦笑する咲夜さんに、労いの言葉をかける。
「いつも寝かしつけてもらってごめんね。ありがとう。」
「これぐらいしか出来ないから。陽花里こそ、いつも僕が居ない間子育て任せきりでごめんね。ありがとう。」
「そんなことないよ。咲夜さんには十分協力してもらってる。だからこの子、パパ大好きだし、咲夜さんに似た優しい子に育ってるもの。」
「それならいいんだけど。…ねえ、陽花里。」
「ん?」
「さっきの話、覚えてる?」
神話の事かな?
「今日の夜間投影でも、この話をしたんだ。そしたら何だか、懐かしくなって。」
私が初めて夜間投影に行った時の事かな。
「今でも、僕は陽花里にとってのペルセウスでいられてる?」
あ、プロポーズの方か。
「もちろん。今でも咲夜さんは、私にとってのペルセウスだよ。」
「良かった。」
「私こそ、アンドロメダでいられてる?」
「もちろん。僕にとって陽花里は、ずっとアンドロメダだよ。今もこれからもずっと、僕は陽花里を愛してる。」
「私も、愛してるよ。」
微笑みあった後、咲夜さんが手招きをする。
「どうしたの?」
「…陽花里。そろそろ、2人目作ろうか。」
耳元で囁かれた言葉に、一瞬で顔が火照る。
この子が生まれてから、抱き締めたりキスはしていても、そういう時間はなかなか持てていない。
「そんな反応されたら、可愛すぎて困るよ。」
「だって…。でも、瑠宇ここで寝ちゃってるけど…」
「瑠宇には悪いけど…自分のベッドに移そうかな。」
一応子供部屋にこの子用のベッドもあるけど、そんなことしたら、明日の朝大泣きしないかな。
「もしも大泣きされたら、2人で謝って宥めよう。だから…」
「…うん。分かった。」
悪いな、と思いながらも、隣の子供部屋に抱いて移した私達は、久しぶりに2人だけの空間になった寝室に戻る。
何だか最初の頃みたいに、ドキドキして恥ずかしい。
ゆっくりと覆いかぶさる咲夜さんは、いつもと変わらず優しくて。
「僕にとって、優しくしたり、大切にしたい女性は、昔も今もこれからも、陽花里だけ。触れたいと思うのも陽花里だけだから。…愛してる。どうしようもないぐらい。」
「咲夜さん…」
続く言葉は、彼の唇に飲み込まれてしまって。
私は久しぶりに、優しくて穏やかで、情熱的な彼に包まれる、幸せな時間を過ごしたのだった。
ーーーEND---
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