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変な夢を見た。
王子様のキスで目覚めたお姫さまが、金髪をなびかせて私に襲い掛かる夢だった。
彼女は私の上に飛び乗ると、むんずと左腕を掴み上げる。
ソフトタッチで腕をくすぐる姫のあごには、うっすらヒゲが生えていた。
今日も私は、日の昇らぬ部屋で朝を迎える。
リビングに行き、粛々と二人分の食事を作った。
耳鳴りがしそうなほど静かな朝食を終えて、いつものようにリビングでスーツに着替えようとパジャマを脱ぐ。
そのとき、唐突に夢の謎が解けた。
「あ、これ」
私の左腕に書かれた、驚くほどへたくそな『バーカ』の字。
無遠慮にも、私が書いたものの三倍はある。
見覚えのあるメタリックブラウンだったので、クレンジングオイルをぶっかけたら溶け消えた。
寝室に戻り、闇の中に横たわる彼を見下ろす。
無垢で穏やかで、世の中の苦しみなんか全て手放しきったような顔。
宴に招かれなかった魔女のように目を吊り上げた私とは正反対だ。
同い年だったはずなのに、肌も私より若々しい。
「そーいえば、あのお姫さまもこんなんだったのかな」
十三番目の魔女に呪われて、永い眠りに落ちた姫。
百年後まで美肌をキープできるなら、ちょっと呪われてみたい気もする。
どうせ私の王子さまは、いつまでたっても寝てるんだし。
「ってか、死んでるのと変わらないじゃん」
やっぱり彼は奇跡的に腐らない死体なのかもしれない。
いっそこのまま埋葬してあげようか。
「でも、その前に」
私はベッドに腰を下ろした。
リキッドアイライナーで、アイラインを引くより早くメッセージを書き込む。
『享年二十六歳』
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