第1章 アンネローゼの事情5

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第1章 アンネローゼの事情5

この街に派遣されている諜報員に会い、話を聞いたアンネローゼとマティアス。 諜報員によるとこうだ。 背の高い、藍色の髪の男は2日前にこの街を出た。 その男は2日程この街にいた。 旅で得た素材等の換金や、食料調達等で立ち寄り、少し休んでから旅立ったと考えられる。 その男は皇子らしい雰囲気等は、とくに無かった。 孤児院のシスター、カエラは病を患っており、半年程床に臥せっている。 日に日に悪くなっていき、死を待つばかりとなっていた。 孤児院の子供達が農家の男に、シスターの病が治ったと話していた。 孤児院に来た客人が、光を放って治したらしい。 それを聞いた農家の人達は、こぞって孤児院まで行き、シスターを問い詰めたが、光ではなく薬で治したと主張している。 客人の情報も何も教えて貰えなかったらしい。 客人は既にこの街を出たと言っていた。 以上が報告だった。 「客人……」 「その客人の情報を教えてちょうだい!」 アンネローゼは諜報員に詰め寄る。 「はい。3日前にこの街にやって来た、旅をしている者のようです。 この2日程はダンジョンに行って、魔物を討伐して資金を得ている様です。孤児院に行っていた、と言う情報は掴めていません。 申し訳ありません。」 「いえ、結構よ。ありがとう。」 アンネローゼは諜報員に金の入った袋を手渡した。 諜報員は頭を下げてその場を去った。 「旅をしている…もしかして、同じ宿の旅人の男……」 「あの旅人が聖女の事に関係している可能性があるわね。旅人の男が帰って来るのを待った方が良いかしら?」 「この宿まで帰って来る保証はありません。先に孤児院まで行って、まずは情報を得る方が良いと思います。」 「そうね、そうしましょう。それにしても、リディは何がしたいのかしら?この街に来た痕跡はあったけれど、彼のしている事は冒険者や旅人といった感じじゃないの。」 「そうですね。旅で得た素材を換金等、皇族ではなく冒険者の類いかと思われますね。お金には困ってないとは思うのですが……それに、旅にも慣れていらっしゃる様ですね。」 「リディは小さな頃からよく後宮を抜け出したりして、一人で出掛けていたみたいなの。何処に行っていたかは分からないんだけど、不意にいなくなるのはいつもの事よ。リディも、自分がお父様から帝位継承の指名をされているとは思ってもみないことだと思うわ。」 「そうでしょうね。しかし、今回はまずは、聖女の事を優先致しましょう。」 「ええ。もちろん。でも、どうしてシスターは聖女を隠そうとするのかしら?聖女になれば、帝都で良い暮らしができるのよ?女神の様に扱われ、敬われると言うのに、なぜなのかしら?」 「皆がそれを幸せだと思っていないからではないでしょうか?慣れ親しんだ場所を離れるのを嫌がる気持ちも、分からなくはありませんよ。」 「そう言うものかしら…?」 アンネローゼには理解が出来ない事だった。 聖女を見つけて連れて行くのは、双方にとって良いことしかないと思っているのだ。 「では、この事を皆に言って、孤児院に赴く事に致しましょう。」 「ええ。そうしましょう。」 そうして、アンネローゼと騎士達は、孤児院に行く事になったのだ。
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