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「ぐう…」
ついさっきまで、ブツブツ文句を言っていた幸太だったが、大きな弁当を2つ平らげた後は、急に静かになった。
きっと、お腹が膨れて眠くなったのだろう。窓の外にチラッと目を移した、次の瞬間にはもう眠っていた。
無理もない。
早朝、爆睡していたのを叩き起こした時には、むくんだ顔して目を擦りながら、まだ半分夢の中だったのだから。
クスッ。
昨日のやり取りを思い出すと、無性に可笑しくなり、自然に笑えてきてしまう。
昨夜、半ば無理矢理一緒にフロに入った時に、まんまと俺は、幸太に恋敵宣言されてしまった。
聞けば幸太は洸のことを、"本気で愛している"のだとか。
それでも、あえてフェアな勝負に持ち込むために、敢えて俺に、真実を明かしに来たんだと、
「まあ、あれだ。"敵に塩を送る"ってやつ?」
などと自慢気に胸を張って言った。
だが、俺にとって問題は、その次の発言だ。
「だからお前も、約束しろよ」
彼は俺に、難しい約束をさせた。
すなわち、
“洸がいいと言うまでは、絶対に手を出さないこと”
だと。
幸太はかなり本気の目で、ジロリと俺を一瞥した。
それまでは、余裕で笑って聞いていた俺だったが、それには思わず眉をしかめた。
この約束で、多少強引に色気と強気で攻め落とす、お得意の常套手段は封じられてしまったわけで、そういうやり方に慣れた俺としてはかなり痛い。
だが、敵に弱みは見せられない。
そんな本心をポーカーフェイスの下に隠し、大人の余裕を保ってみせた。
「…まあいいだろう。
なら、俺が彼女の心を溶かすのが先か、幸太がデカくなるのが先かの勝負だな」
俺が笑うと、彼もまた不敵な笑みを返してみせた。
これは…心してかからないとヤバいぞ。
幸太は真面目にいい男だから、もたついていると、本気で彼女を持っていかれる。
毎日一緒にいる幸太と比して、距離が離れすぎてるのも痛い。
すると、まるで俺の考えを読んだように幸太はすかさず釘を刺した。
「あ、そうだ。翔、会社はサボりすぎんなよ。洸が心配するから」
だと。
さすがは勝負師、全く抜け目のないヤツだ。
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