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変身は強制的にさせられるわけでも、また、特に難しいようなことでもねえ……自分の内に秘めているもんを解き放つ……ただ、それだけでいい……。
ちょっと筋肉に力を込めるようにすると、俺の四肢は太くなり、全身が灰色の毛で追われてゆく……鼻先は伸び、尖った耳まで裂けた口には鋭く大きな牙が生え揃う……。
「…人狼っ!? ……ま、まさか、あんた、本当にリュカ・ド・サンマルジュ……」
真の俺の姿を見て、呆然と立ち尽くす探偵が譫言のように呟く。
「おうともよ。てことで、あんまし長居もしてられねえ海賊稼業、とっととすませてお暇するぜ。ほら、獲物を狩るんだろう? 早く来いよ、このウスノロな偽物野郎」
俺は正直に短く答えると、やはり唖然とした顔の偽人狼を上から目線で挑発してやった。
「くっ…言わせておけば! このケダモノがあっ!」
その挑発にまんまと乗せられ、偽物は鋼鉄製の鉤爪を振り上げると、一直線に俺へ向かって突進して来る。
だが、遅え……遅すぎるぜ。俺は難なくそれをすり抜けると、その拍子にこちらも天然の爪でやつの柔らかい腹を切り裂いてやった。
「ぐぅああっ…!」
一瞬の後、やつの裂かれた腹からは真っ赤な鮮血が吹き上げ、交錯した俺の背後で断末魔の叫び声をあげて床へ倒れ込む。
「ああ、もちろんケダモノさ。なにせ人狼だからな……」
みるみる広がる血溜まりの中に倒れ伏し、今や虫の息の偽物に対して、礼儀正しい俺はそう返事をしてやった。
「ふぅ…お頭に頼まれて新刊の魔導書写本を闇本屋に卸しに来たはいいが……ったく余計な労働させられたぜ。こりゃ、てめえからも手間賃もらわねえと割にあわねえな」
成り行き上、思いがけずも偽人狼を始末した後、俺は人間の姿に戻りながら、真っ蒼い顔で突っ立っている探偵にそんな冗談を言ってみる。
「ひぃっ…お、俺を食ってもうまくないぞ! か、代わりになんでもやる! 金はねえが……そうだ! あんたのことは誰にも通報させない! てか、これまでの無礼は謝る! だ、だから、どうかそういうことで……」
だが、場を和ませようとしたその冗談も、今のこいつには通じなかったようだ。小刻みに震える瞳で俺を見つめながら、歯をガチガチ言わせて命乞いをしてくる。
しかも、俺を猛獣か何かのように誤解していやがる。誰が人間の肉なんざ食うかってんだ。
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