手紙

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一枚の便箋に想いを込める『手紙屋さん』があるという。 そんな噂を聞いて、一生に一度の最後の手紙だから、便箋をお願いする事にした。 電話での予約は朝夕八時から九時までの一時間ずつしか受け付けておらず、掛けると愛想のない男性の声がした。 想いを込めるとは裏腹の事務的な応対に不安も覚えたが、そのまま予約を入れる。 当日は朝九時に店舗へと赴いた。 寂れた街にある神社の裏手。古く小ぢんまりとした日本家屋に手紙屋さんはあった。 店というよりは作業場兼住宅の様相で、呼び鈴を鳴らせば無表情の男性が出迎える。 大柄で無骨な姿も職人気質を地で表しているようだ。 掘りごたつ式になっている居間に通されて、座椅子に腰掛ける。 畳の匂い、風の匂い、近くの川の匂い、自然の香りがその部屋には溢れている。 私の目の前に日本茶を出してから、あの男性は机を挟んで向かい合う形で座った。
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