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 2019年9月29日(日)  高島顕は大の寿司好きだ。高知タウンにある回転寿司屋に出かけた。  最近はタピオカが流行している。黒い粒粒、まるでオタマジャクシの卵だ。  意外とトロとの相性があう。ほたてにイクラ、炙りサーモンなどいろいろ食べた。最後は矢張り玉子だ。友人の浅利篤朗などは割り箸で行儀よく食べているが、やはり寿司は手で食べるのが常識だ。ネタを逆さにすると食べやすい。 「15皿も食べた」  浅利は腹をさすっている。 「俺は17皿、俺の勝ち」  勘定を済ませて寿司屋から出ようとしていると太ったスーツ姿のおっさんが苦しみだして死んだ。 「せっかくの休暇だっていうのに」  高島はぼやいた。高島と浅利は高知県警の刑事課に所属している。  被害者は柄本隆之介、45歳。北村物流の営業マンだ。  目を細めながら浅利が名刺を見ている。 「老眼?」 「37にもなりゃ仕方ないだろ?」  高知タウン署の刑事課長がやって来た。テレビドラマじゃ刑事たちがわんさかやってきて現場を調べるが、現場に入れるのは刑事課長とか県警本部長だとか偉い人間しか入れない。鑑識なども入れる。 「苅谷じゃないか?」  高島は驚いた。苅谷英和と高島は警察学校時代の同期だ。 「まさか、おまえがやっちょったんじゃないよな?」  「やりゆうよ?」  「いかんちゃせられん」  苅谷をからかってやった。 「俺たち非番で遊びに来てたんだ」  浅利がフォローしてくれる。浅利は東京の人間だ。    司法解剖の結果、被害者の体内からテトロドトキシンが検出された。 「奴さんフグ食って死んだにかあらん」  にかあらんは、東京ではらしいだ。  取調室に苅谷が入ってきて高島に言った。  現場にいたということで高島たちも警察署に呼び出された。 「寿司屋が犯人?」  高島は腹をさすってる。 「どういた?」 「食い過ぎた」    取調室に髪の毛ボーボーの新人刑事が入ってきた。北村博太郎。新人だが50歳だ。去年まで埼玉にいたらしい。 「寿司屋が行方をくらませました」  苅谷は高島に寿司屋を探すように命令してきた。  所轄の係長が偉そうに!と高島は鼻で笑った。  浅利も誘ったが非番だからと断られた。  高島は高知タウン署から出た。署は高知駅のまんまえにある。『龍馬伝』幕末志士社中がある。福山雅治の龍馬もよかったが、『新撰組!』のときの江口龍馬もよかった。  犯人を探し出したら警視になれるだろうか?  高島、浅利、苅谷は3人とも身分は警部だ。  Gショックを見た。時刻は19時を過ぎたころだ。9月も明日で終わりだ。明日は月曜日、『監察医の朝顔』の特番がやるが録画しておいたほうがよさそうだ。  寮はこの先にある潮江橋の近くにある。  帰り道に手がかりがないか探してみるか?  高知ホテルやオリエントホテルなどを聞き込んだが、寿司屋の小池孝之は来ていないようだった。スナップ写真の小池はどことなく福山雅治に似ている。  ホテルから出て32号線をとぼとぼ歩いた。高知橋にさしかかる。  江の口川に差し掛かる。空には星ひとつなく、暗鬱とした雲が立ち込めていた。『たたき亭』という居酒屋に入った。  カツオとウツボのたたきは絶品だ。油がのっている。カツオとは縁起がいい!ウツボもつかんだら離さないし?カツオの茶漬けも最高だった。  スライスした生のにんにくをのせてポン酢でトロカツオを食べた。  春は初ガツオ、秋は戻りガツオって呼ぶ。  板前や客に小池について聞いたが収穫は得られなかった。  苅谷からメールがあった。  小池には後藤紗希って彼女がいたらしい。  桂浜に住んでいるそうだ。 『たたき亭』から出てすぐ近くの『希満里』って料理処に入った。浅利になんて読むかメールでクイズを出した。土佐のカツオやクジラといった海の幸、地元野菜がこんもり盛られた皿鉢料理が隣の席に置かれた。さすがにもう食べられない。 「あの、ご注文は?」  「もう少しまっちょって」  メールの着信音が鳴った。苅谷からだった。死んだ柄本のスマホのメモには『saboru西』って残されていたらしい。ダイイングメッセージだろうか?  注文しないのもまずいので瓶ビールと枝豆を頼んだ。             
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