良夜

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翔琉(かける)が君に興味を抱いてまずはじめにしたことは、名前の由来を調べること。女なのに、良夜(りょうや)。ネットで検索すると、月が明るい夜のことを言うらしい。それで当たりかどうかが気になって、君に尋ねると予想は的中した。 両親の出会いが旅先の砂浜。蒸し暑い南国で寝苦しさに目を覚ますと、驚くほど月が明るくて外へ出た二人。異国の地で同じ国籍の異性と満月の明かりに導かれた出会い。運命を感じるには十分だった。 そんな両親の出会いが君の名前の由来。みんなには男みたいだって言われていた。売れないホストみたいだとも言われていた。それでも君は自分の名前が好きだって言っていた。翔琉もそんな君が好きだった。翔琉にとって君は、暗闇を照らしてくれる月明かりだから。 翔琉は15歳。通学に1時間もかかる学区外の中学校を選んだのは、自分の強い意志。それが今では強い足かせとなって、翔琉の世界を暗闇へ落とし込んでいた。 始まりはバスケ部で、キャプテンに指名されたことにある。全国大会常連校で自分の可能性を試すために選んだ学校。だけど、指名された翌日に顧問の母が倒れた。すでに父も亡くなっており、独り身の顧問は世話のために、平日は練習に来れなくなった。 そのまま3ヶ月が過ぎて迎えた初めての大会。色褪せた紺色の生地に「全国制覇」の文字は金色。それは市民体育館の2階席に掲げられた横断幕。 ブザーが鳴った。電工掲示板のタイムは0.00秒。膝に手をついてうつむいた翔琉の気持ちを表すように、オレンジ色のボールが弾むことをやめて転がっていく。翔琉は、はっきりと聞き取った。 「これで明日は休みだな」 この大会は東京都の新人戦。3連覇を懸けた準決勝での敗北。翔琉はコート上で瀬川の胸ぐらを掴んだ。 「辞めちまえ」 キャプテンとして、全国制覇を目指す強いチームになるため、瀬川の寝ぼけた発言は許せなかった。観客席から悲鳴が上がったって、掴んだ胸ぐらは離さない。自分が正しいと確信を持っていたからだ。だけど、その翌日、瀬川が部活を辞めた。
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