「檸檬とレモン」

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それぞれの作品にはそれぞれの文学的、歌詞的な意味がある けれど、僕たちがすることに何の意味があるのかわからない とにかく現在、僕たちは恋人同士で しかも付き合い始めたばかりだ それはこんな会話で始まった 「えっ、そうなん、私もさだまさしの歌、好きやねん」 「さださんの歌を聞いてるんやったら・・『檸檬』っていう歌、知ってるか?」 「もちろんやわ・・聖橋からレモンを放るっていう歌でしょ、私、結構、好き」 「そしたら・・梶井基次郎の小説『檸檬』も知ってるよな?」 「知ってる、知ってる・・高校の時、読んだよ・・丸善の本屋さんの本の上に『レモン』を置いたまま店を出てしまう、っていう話でしょ?」 付き合い始めて間もない彼女との会話・・ まだ彼女とどんな風な繋がりを持っていけばいいのか 試行錯誤している時だった 映画やテレビの話などしてもどこか空虚なところがあった けれど、檸檬の話・・ 初めての彼女とそんな共通の話題が持てたことがとても嬉しかった それは文学と音楽の話、同時だったのだから だから、もっと彼女と二人だけの物語を作りたかった 神社の賽銭箱の上にレモンを置いて去っていく・・それだけの話
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