ターミナルクック

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 仕入れ、下処理、調理、盛り付け、提供、皿洗いなどをチームで分担して行い店舗の売り上げを競い合うオンラインゲーム「ターミナルクック」。SNS経由の友人キヌタに誘われて三千円のそれをダウンロードしたウマコは盛り付け担当としてそのセンスを振るっていたが「これバイトじゃね?」と思っていた。キヌタはさすが難関大学の経済学部に所属するだけあって彼らの店舗は一月後には地域トップの売り上げを記録しモデル店舗としてターミナルクックのホームページにも取り上げられた。そしてキヌタはその手腕を買われエリアマネージャーのランクが解放され仲間から離れていった。キヌタというカリスマを失ったウマコたちはやがてゲームに飽きて辞めてしまったが彼らが始めた店舗には部門ごとに優秀な人材が次々とキヌタによってスカウトされ、今では全国的に名を轟かす店舗と化していた。  ウマコは心理学の講義中にふと思い出してターミナルクックについて調べてみるとこのゲームには「客側」の商品もあることを発見した。各店舗を訪問しサービスを評価したりクレームをつけたりするゲームだった。そして優秀なクレーマーとして表彰を受けているIDを見て苦笑いした。それはウマコたちの店舗によくやってきていた面倒な注文を付ける客だったのだ。  ターミナルクックを配信しているオペレーション社はゲームから得た店舗経営情報を用いて実店舗の運営を効率化するコンサルティング事業を行なっていた。コンサルの評判は高く、資金を調達したゲーム部門からはVR版ターミナルクックが発売された。  VR版ターミナルクックでもキヌタの店舗は常にトップの売り上げを記録し、就職活動前にキヌタはオペレーション社への内定を得た。学業から解放されたキヌタはさらにゲームにのめり込み、朝から晩まで店舗経営に精を出してはオペレーション社から送られてきたインスタント食品を食べ、疲れ果てて眠った。そしてある朝ゲームを起動する手がふと止まった。 「これ仕事じゃね?」  内定は得たがこれまでゲームに邁進した二年間、バイト代などもらっていなかった。自分は一体何をしていたのだろう。しかしオペレーション社の社員からログインの催促がSNSのダイレクトメッセージで届きキヌタはゲームを起動した。ひどく疲れていた。  そのころオペレーション社では無人店舗の運営が企画されていた。
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