あ・そ・ぼ(1)似たものカップル

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あ・そ・ぼ(1)似たものカップル

 ゴールデンウイーク。勿論警察官は、休みは取るが、順番だ。  そのゴールデンウイークに、世間のカレンダーに近い日程で休みを取ったのは、3係の美保さんだった。申請書類によると友人と旅行となっている。  が、僕も、直も、沢井さんも徳川さんも知っている。その友人とはエリカの事で、2人は付き合っていると。  警察官は、お付き合いをし始める時に上司に報告をし、その相手がクリーンであるかどうかのチェックを受ける事になっている。なので、3係長の沢井さんと課長の徳川さんは知ったのだ。  そして僕と直は、エリカとは高校の頃からの友人なので、エリカから報告が来たのだ。  それはそれは嬉しそうに、 「こんなに趣味が合う人は初めてよ。ホラー映画観賞会も、お化け屋敷巡りも、もう、楽しみ!」 と言っていた。 「エリカと美保さんかあ」  御崎(みさき) (れん)。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、キャリア警察官でもある。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。 「お似合いではあるねえ」  町田(まちだ) (なお)、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いである。そして、キャリア警察官でもある。 「そうだな。なんせ2人共、筋金入りの幽霊好きだもんな」 「2人になって、暴走しない事を祈るのみだねえ」 「お、恐ろしい事を。そんな面倒臭い事はごめんだぞ」 「そ、それもそうだねえ。シャレにならないねえ、あり得るだけに……」  僕達は揃って、嫌な予感に体を震わせた。  だがそれは、世間で言うところのフラグというやつであったらしいとは、後になって思った事だった。  その廃墟は、郊外にポツンと建っていた。  元は養護施設で、園の敷地は広く、建物も大きい。火事で死者を7人出して閉園となり、そのまま放置されていた。 「ススで真っ黒ね」  エリカが声を潜めて言った。  立花(たちばな)エリカ、高校で同じ心霊研究部を創部した仲間だ。オカルト好きで、日々、心霊写真が撮りたいと熱望している。食品会社に務めるOLだ。 「犠牲者は子供ばかりだったらしい。痛ましいね」  美保も、声を潜めながら言う。  美保章良(みほあきら)、陰陽課3係の刑事だ。エリカを男にしたような感じで、陰陽課に配属されますようにとお百度を踏んだという噂もある。  2人は春から付き合いだして、今回、この幽霊の噂がある廃墟に見学に来たのだった。 「いないなあ」  カメラを回しながら呟く美保に、エリカは、 「怜だったら、間違いなく面倒臭そうにこう言うわね。『そんなに幽霊を撮りたいならあの辺撮っとけ。シュミラクラ現象で幽霊に見えるぞ』」 「プッ。高校生の頃、そういう感じだったんだ」 「そう!全く。  直も、基本的にいつも怜の味方なんだから。  宗は、そこに霊がいれば間違いなく心霊写真が撮れるから、ほんっとうに、羨ましかったわ」 「いいなあ、その体質」 「でしょう?」  本人が聞いたら怒るか泣くか呆れるかしそうな事を言いながら、2人は建物内を歩いて回った。 「後は、火元、焼死の現場だね」 「さあ、行きましょう」  ワクワクを抑えながら、2人で地下へ下りて行った。  当時地下は物置兼食料保管庫として使っていた部屋の他に、子供達が遊べるプレイルームというのがあったらしい。  その日、仲の良かった子供7人グループは、ここで何をしていたのかはわからないが、ろうそくを持ち出して何かしていたようだ。その火が絨毯に引火し、急激に発生したガスで動けなくなったまま火に巻かれ、1階に火が広がって職員などが気付いた時には、もう手遅れになっていたようだという。  そこは、壁も床も何もかもが真っ黒だった。  見えはしないが、何となく想像するだけで、重苦しい気分になって来る。 「今なら、危険なガスが出ない素材とか、難燃繊維のものを使うんだろうけど」 「苦しかったでしょうね」  2人はそっと手を合わせた。 「それにしても、何をしてたのかしらね。ろうそくを使ってたんでしょ?」 「こっくりさん的な何かとか、怪談とか?」  2人はしばらく、こっくりさんの思い出に花をさかせていたが、いつの間にか時間が経っていた事に気付き、そこを出る事にした。  わらわらと子供達の幽霊を引き連れているとは全く知らずに……。
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