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化粧室のドアの内側では、ありさが、少しの間目をつぶり、胸の動悸を静めていた。今、耳にしたばかりの言葉の恐ろしさに、手足が小刻みにふるえていた。
あの人たちは、また同じことをしようとしている。今度は成功するかもしれない。
一番怖いのは、当の義人さん本人が何も気づかないでいること。無理もない。あの頃のことは何もおぼえていないのだから。
ありさの頭には、一瞬、二人で過ごしたピースバレーの風景が浮かんだ。今現在の恐怖から逃げ出したいがために、心の一部があの幸せな日々に向かうのだろうか。
逃げ出す? 何のためにわたしはここにいるの? 愛する人を守るためでは? あの人に、ただ過去の楽しいときを思い出させて、わたしにほほえんで
もらうためではないはず。彼を救いに来たのだ。そのために、わたしはここにいる。
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