17-1 創立記念レセプション 1

13/21
180人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
 化粧室のドアの内側では、ありさが、少しの間目をつぶり、胸の動悸を静めていた。今、耳にしたばかりの言葉の恐ろしさに、手足が小刻みにふるえていた。  あの人たちは、また同じことをしようとしている。今度は成功するかもしれない。  一番怖いのは、当の義人さん本人が何も気づかないでいること。無理もない。あの頃のことは何もおぼえていないのだから。  ありさの頭には、一瞬、二人で過ごしたピースバレーの風景が浮かんだ。今現在の恐怖から逃げ出したいがために、心の一部があの幸せな日々に向かうのだろうか。  逃げ出す? 何のためにわたしはここにいるの? 愛する人を守るためでは? あの人に、ただ過去の楽しいときを思い出させて、わたしにほほえんで もらうためではないはず。彼を救いに来たのだ。そのために、わたしはここにいる。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!