危機

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「トドメはフクちゃんに任せるよ」  小声で肩のオウルに声をかけ、慧はクイと口角を上げた。オウルは勢いよく男の方へ飛んで行き、急所である眉間に嘴を突き立てる。 「ぐあああああああっ!!」  断末魔のような叫び声をあげながら男は床に倒れ、痛みのショックで気を失ってしまった。 「おい、何をやったんだ?」  水無月が不思議そうな顔で慧のところへやって来る。もちろん、相手をしていた男は床で伸びていた。 「ちょっと水無月さんっ! 慧! こっちも手伝って!!」  まだモタモタしている翔平に、水無月はチッと舌打ちすると助っ人に向かう。 「ほんっと強いなぁ、水無月さん」  水無月が駆けつけると、あっという間に男をのしてしまった。 「だから、普段からもっと鍛錬しとけって言ってるだろうが!」 「してます、してますよっ! でも、水無月さんを基準にしないでください! 水無月さんは規格外なんですっ!」 「お前もデカイ図体してんだから、こんな奴ら、一発で仕留めろ」 「そんな無茶な……」 「こっちの優男の方がよっぽど強いじゃねーか」  慧を見ると、にこにこと翔平に手を振っている。  翔平は知っている。慧の側にはオウルがいるのだ。二対一なら、それは有利に決まっている。 「慧も色々と規格外なんですよ!」 「ほらほら翔平君! いじけてないで行くよ~」  能天気な慧の声にイラッとしながらも、翔平は密かに胸を撫で下ろしていた。  蛍が攫われたと連絡を受けたときから乱闘になるまで、いつもので慧であって、そうではなかった。これまでそんな慧を見たことがなかったので、内心心配していたのだ。冷静さを失っているのではないか、と。  大切な仲間が攫われたのだ。そうであったとしても仕方がない。しかしそれは、戦場では命取りとなる。 「いい肩慣らしになったな」  意気揚々と歩き出す水無月と慧の後ろについて行く翔平は、ホッとしながらも、苦々しい笑みを浮かべていた。
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