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しかし現実は、美味しい珈琲を飲んで回復するわけではない。
回復したのは私の心の問題であって、現実世界に気持ちは反映されていなかった。
フラれた事実が消えることはなく、卒業が目前となっている私にとって、この別れは大誤算だった。
初めてのお付き合いだった。平均の長さは分からないけれど、少なくとも1年付き合ったことは短くはないと私は思っている。
結婚前提を受け入れてくれていたことからも、このまま卒業と同時に結婚できると高を括っていた。それが破綻してしまうことなど考えていなかったことは、浅はかというしかない。
でも、私は大丈夫だって信じていた。ううん、そう信じていなきゃ怖かった。だってもう、私に次の彼氏だなんて難しいことくらい、自分が一番分かっているのだから。
「それで花音ちゃんは、お見合い承諾しちゃったの?」
「……うん」
「ええのそれで?」
「……はい」
順に私に尋ねるのは、久須見先輩と同じ大学に行っている高校から友人の葛西友香と、私と同じ短大に通う城田希依の2人だ。
面白くもないだろう私のことをいつも心配して、寄り添ってくれる2人にはいつも感謝の気持ちしかない。
だから心配をかけさせたくないと思うのに、私の言うことはいつも彼女たちを怪訝な顔にさせていた。
「返事の間が気になるけど~っ!」
「私なんかに、次の人は難しいので……」
「花音。私なんかって言わんて約束は?」
四国訛りの言葉で希依ちゃんに窘められて口を噤む。希依ちゃんはいつも私のマイナス思考と発言をダメだって言って正してくれる。
でもそれで前向きな気持ちを持つことはなかなか難しい。根っこから陰気でつまらないのだから、私なんて――
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