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叱られて、立花は素直に謝る。
段差を降りた後でも、握っている手の強さは変わらない。
しっかりと触れられるのは嬉しいけれど、いい加減痺れてきた。
同時にどくん、と血が通うときの感触を腹の奥で感じる。
「びっくりさせちゃったから、怒られたのかな」
立花は労るようにして、自分の腹を撫でた。
手の内側にしっかりとした胎動が伝わってきて、立花はふふ、と微笑む。
愛しい人の血を半分分けた、大切な子が自分のお腹の中にいる。
「立花君に似てきっと元気な子だな」
自分を、そして新たに芽吹き始めた命を、彼は愛してくれる。
他の何もかもを失ったとしても、その事実だけで強く生きていけるような気がした。
水平線に沈み始めたオレンジ色の夕日が、立花の髪と頬を優しく照らす。
歩きながら、立花は「好き」と呟くように言う。
胸で感じている幸せを色で表せるとしたら、ちょうどこんな色なんだと思う。
返ってきた同じ言葉に、立花は満ち足りた表情で横顔を見つめ返した。
fin.
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